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KPIは達成しても商談が増えないのはなぜか?商談を予測できるKPIの設計方法

西村 由香(インハウスマーケター)
2026-02-10
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KPIを設定したものの、本当にこの指標で商談が増えるのか確信が持てない、測定はしているが改善アクションにつながらない、といった課題をよく伺います。

多くの企業が基本のフレームワークを参考にKPIを構築しますが、自社のフェーズや業界特性を考慮せずにテンプレートをそのまま適用してしまうと、ビジネスゴールから乖離し、形骸化した指標になるリスクがあります。

本コラムでは、現状のKPIツリーが機能不全に陥る構造的な理由と、商談獲得に直結させるための再設計の手順を解説します。

KPIを設定しただけ、を脱却する

KPIツリーが単なる絵に描いた餅になってしまう主な原因は、その設計自体に、組織の目標や施策とのロジックが欠けている点にあります。

KPIツリーの形骸化を防ぐ、質の相関性の定義

多くのBtoB企業で見られるのが、マーケティング部門が獲得したリードと、営業部門が求める質とのギャップです。

例えば、「PV × CVR = リード獲得数」は計算式としては正解ですが、ビジネス成果を導くロジックとしては不十分です。BtoBマーケティングにおけるKPIの正しさとは、最下層の施策(例:コラム執筆)が、最終的な商談・売上にどのような質を伴ってつながっているかを説明できる状態を指します。

もし目標設定が、問い合わせ数などの量で止まっており、その後の案件化率や受注確度との相関が追えていないのであれば、それはビジネスゴールに接続されたKPIではなく、単なる作業量の測定になっています。質の概念を欠いたKPIツリーは、現場に売上につながらないリードの大量生産を強いることになり、組織の生産性を著しく低下させます。

関連記事:KPIとは?KGIとの違いやマーケティングでの設定・活用手順を解説

計測の容易性を排除した商談創出ロジックの構築

KPI設計で最も陥りやすい落とし穴は、MAツールなどで簡単に集計できる数値(PVや資料ダウンロード数など)ばかりを指標にしてしまう点にあります。例えば、ダウンロード数などの「数」だけでなく、ターゲット企業に合致しているか(ABM視点)や、検討フェーズが深まっているかという「質の要素」を組み込むことが必要です。

具体的には、下記の3ステップで「質の要素」を組み込むことができます。

  • ターゲット外を分母から排除する: 全リード数ではなく、自社が狙う「業種・規模・役職」を満たすリードのみを有効リードと再定義します。例えば、月100件のダウンロードより、ターゲット企業10件のダウンロードを評価する指標へシフトします。

  • 営業と商談化の条件を言語化する: どの資料を読んだら脈ありかなど、営業が即座に動きたくなるアクションを特定し、スコアリングの基準に反映させます。

  • 市場水準(ベンチマーク)との比較を行う: 自社データだけでなく、業界標準の商談化率や受注率と比較します。これにより、課題がリードの質にあるのか、営業の追客プロセスにあるのかを客観的に切り分けます。

KPIの設定時に検証すべき3つの品質基準

設定しただけを脱却し、KPIを改善のエンジンに変えるためには、モデルを構築する前に以下の3つの視点で現状を厳格に評価する必要があります。

  1. 歩留まりの妥当性検証: 各ファネル間の転換率(CVR)は、業界標準や過去の勝ちパターンと比較して適切か。特定チャネルだけ異常に低くないか。

  2. リード属性の解像度検証: 獲得できているリードは、営業が追いかけるべきターゲット企業・部署・役職と合致しているか。数値を追うあまり、ターゲット外を大量集積していないか。

  3. データ連携の連続性検証: MA上の行動データとSFA上の商談データは一気通貫で紐付いているか。施策の貢献度を商談ベースで評価できる環境にあるか。

運用フェーズで確認すべき、商談との連動精度

もし、リード獲得数が増え続けているにもかかわらず、1〜2カ月後の商談数に変化が見られない場合、そのKPIツリーは破綻しています。この場合、以下の実務的な検証材料を用いてロジックを疑う必要があります。

  1. SLA(営業連携基準)の再定義: マーケティング部門が良質なリードと定義したものが、営業のアプローチ優先順位と一致しているか。

  2. コンテンツの検討フェーズ不一致: eBookの内容が初歩的な学習に寄りすぎており、自社のサービス検討(課題解決)へとつながるフックが欠落していないか。

  3. データ計測の不備: 特定のフォームからの流入が、正しくSFAの案件情報と紐付いていないために貢献していないと誤認されていないか。

KPIツリーの利活用度を高める実務的な運用手順

KPIは設計して終わりではなく、施策実行フェーズで、UX(ユーザー体験)の課題へと落とし込むことで初めて機能します。

施策実行フェーズでの再点検

KPIツリーが示すボトルネックは、最終的にWebサイトの情報設計、導線設計、コンテンツ設計といったUX設計の課題に集約されます。例えば、資料ダウンロードページの離脱率が高い場合、単にボタンの色や位置を変えるのではなく、訪問者の検索意図とページで提供している情報が一致しているかを深掘りする必要があります。

分析専門性と施策実行力の両立

ボトルネックを特定できても、それをWebサイトやMA設定に反映させる実行力がなければ、PDCAは滞ります。データ分析からUX設計、コンテンツ制作、MA運用という複数領域の実務スキルを、組織横断で確保できているかが重要です。

ナレッジの蓄積と標準化

施策の成功・失敗事例や、KPIツリーの変更経緯をドキュメント化し、特定の担当者に依存しない体制を構築します。これにより、担当者の異動や増員時にも、ブレのない改善活動が可能になります。

商談を生むKPIは、現場のリアリティから生まれる

KPIツリーの構築は、マーケティングの全体像を可視化する非常に有効な手段です。しかし、それが単なる算数になってしまうと、BtoBマーケティングにおける本質的な成果(受注・売上)からは遠ざかってしまいます。

重要なのは、計算上の整合性だけではなく、その数値の向こう側に、自社が支援すべきお客さまの姿が見えているかという視点です。

  • 量より質を定義する: リード数という箱の数ではなく、その中身の質にこだわること。

  • 現場の声を反映する: 営業部門が求める商談の質を、マーケティングのKPIに逆算して組み込むこと。

  • UX視点で改善する: 数値の落ち込みを、お客さまの体験(UX)の課題として捉え、具体的な施策へ落とし込むこと。

正しく設計されたKPIツリーは、マーケティングと営業が同じ方向を向くための共通言語となります。もし、自社での再設計に限界を感じた際は、外部の客観的な視点を取り入れることもひとつの選択肢です。他社事例や専門的な知見を交えることで、自社だけでは気づけなかった商談創出のボトルネックが明確になるはずです。

よくあるご質問

Q1. リードの「質」を定義するための具体的な第一歩は何ですか?

A1. まずは営業部門と「どのようなリードであれば、即座にアプローチしたいか」を言語化するSLA(サービス・レベル・アグリーメント)の策定から始めることをおすすめします。役職、企業規模、特定の行動履歴(例:価格表の閲覧)など、商談化率の高い共通項を見出すことが、質の高いKPI設計の土台となります。

Q2. 業界標準の転換率(CVR)はどこで知ることができますか?

A2. 一般的な平均値は公開されているものもありますが、商材の単価やターゲット層によって大きく異なります。博報堂アイ・スタジオでは、数多くのプロジェクト実績に基づいた業種別のベンチマークを保有しています。自社の数値が「改善の余地があるものか」を判断する材料として、専門家の知見を活用いただくのが近道です。

Q3. ツールのデータが散在しており、正確なKPIが計測できません。

A3. BtoBでは、MAとSFAのデータ連携が不十分なケースが多々あります。まずは「どのデータが、どのフェーズのKPIに対応しているか」を棚卸しし、計測環境の整備(GTM設定やダッシュボード構築)を並行して進める必要があります。正しく計測できて初めて、戦略的な判断が可能になります。

執筆者
西村 由香(インハウスマーケター)
デジタルマーケターとして事業会社にマーケティングオートメーションの運用設計/ノウハウを提供、人材サービス企業の4事業部を統括するデジタルマーケティング責任者として従事。2023年より博報堂アイ・スタジオにて自社のデジタルマーケティングの仕組を構築・運用する傍ら、クライアント業務も実施。