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BtoBマーケの成果に直結するペルソナ設定。作成手順とBtoCとの違いを解説

西村 由香(インハウスマーケター)
2025-09-08
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マーケティング施策を打つための羅針盤ともいえるペルソナの設定は、非常に重要な役割を担います。そこで本記事では、BtoBビジネスに特化した内容で、ペルソナ設定の重要性、ペルソナの作成手順のテンプレートをご紹介します。後半ではペルソナの活用方法や注意点まで網羅して解説しますので、これからBtoBマーケティングを始める方、ペルソナを作成したい方は、ぜひ最後までご覧ください。

ペルソナとは?

ペルソナとは、マーケティングにおける自社サービス・商品を利用する典型的な生活者像のことです。まずは、ペルソナの定義やターゲットとの違いについて詳しくみていきます。

サービスや商品を利用する理想の顧客像

ペルソナとは、自社の顧客像として「年齢、職業、住所、年収、趣味、ライフスタイル、家族構成」など、価値観まで踏み込んだ詳細なプロフィールを設計するマーケティング手法です。架空の生活者像を具体的にイメージすることで、生活者視点に立ったニーズや購買行動の分析、マーケティング施策の改善・最適化に活用します。

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ペルソナとターゲットの違い

ペルソナとターゲットは、どちらも自社ユーザーを示す指標ですが、設定方法や絞り込む生活者層が異なります。まず、ペルソナは自社が想定する「象徴的な仮想生活者像」です。ターゲットは、40代・女性・関東在住のような、自社がアプローチしたい「実在の生活者層」を指します。どちらもマーケティング戦略には欠かせない指標となるため、ペルソナとターゲットの差を理解して正しく活用することが大切です。

BtoBとBtoCのペルソナの違い

BtoCでは「個人」をターゲットとするので、基本情報に加え、好きな番組や休日の過ごし方、趣味など、興味やパーソナルな要素を重視したペルソナを設定します。その一方で、BtoBは「企業や組織」をターゲットとするため、企業の情報収集担当者のペルソナに加え、業務課題や会社規模、決裁者や人数などの組織的ペルソナも考慮しなければなりません。BtoBとBtoCでは、顧客の購買行動や意思決定プロセスが大きく異なるため、混同しないように注意が必要です。


BtoBマーケティングにおけるペルソナの重要性

BtoBマーケティングを成果につなげるには、企業に複数いる意思決定者のニーズを正確に把握し、適切なアプローチを行うことが大切です。ここでは、ペルソナがなぜBtoBマーケティングにおいて役立つのか、そのメリットを詳しく解説します。

  • 顧客視点の細かなニーズを発見できる

ペルソナを一人の代表的な人格として考えると、「いつ」「どんな場面で」「どのように」自社商品を使うのか、その行動やニーズを深掘りしやすくなります。顧客目線に立った自社分析を行うことで、生活者ファーストの施策立案や、訴求力の高い商品企画に役立ちます。

  • 担当者間でイメージを統一できる

ペルソナ設定の最大のメリットは、社内で思い描く顧客像を統一できることです。各部署でペルソナの課題や心理を共有できれば、認識のズレをなくしプロジェクトの検討もスムーズになります。こういったペルソナのイメージ統一には、氏名や顔写真をつけた人物像を共有する手法も有効です。

  • 競争優位性を見出すことができる

ペルソナを起点に自社分析を行うと、「購入コスト」「期待する機能」「サービス内容」など、競合と差別化すべき自社の強みを明確にできます。自社サービスやマーケティングの方向性が定まれば、ペルソナと似たターゲット層への市場優位性確立もスムーズです。

  • 時間やコストの削減と業務効率化につながる

ペルソナ設定でアプローチの方針が明確になれば、効果的なマーケティング施策に絞って議論でき、結果的に無駄の削減や素早い意思決定につながります。たとえば、ペルソナの属性情報を参考に販売戦略やセグメンテーションを設定すれば、効率よく広告コストを削減可能です。


データに基づくペルソナの作り方

ペルソナ設定に取り組むにあたり、思い込みや先入観で的外れな人物像にならないよう、決まった手順やルールを守ることが大切です。ここでは、ペルソナの作成手順のテンプレートをご紹介します。

ステップ1: 自社の商品やサービスを分析する

ペルソナ設定では、まず顧客目線でみた自社の強みや市場価値を分析するところから始めます。市場におけるポジショニングを探る3C分析や、顧客の購買プロセスを分析する4C分析などのフレームワークを取り入れるのがおすすめです。

ステップ2: 顧客データからターゲットを絞る

自社分析の次は、社内にある既存顧客のデータを精査し、ペルソナ設定に必要なターゲット属性を絞り込みましょう。具体的には、直近半年以内のアクティブな生活者の属性や購買履歴をチェックしたり、Web解析やアクセス解析などを用いて、自社のメインターゲットとなる生活者の情報を収集します。新規事業など既存顧客がいない場合、他社情報や公的な統計などの定量的な市場調査を参考にしてください。

ステップ3: 既存顧客へのインタビューやアンケートの実施

ペルソナ設定にあたり不足する情報があれば、既存顧客へのインタビューやアンケートなど、定性的な調査の実施を行います。商品購入のきっかけや、使用感、満足・不満足のポイントなど、生活者の言葉を集めれば、よりリアルなペルソナ設定につながります。

ステップ4: ペルソナを設定する

BtoBの場合、商品やサービスの購入は一人の担当者ではなく、複数の役職者が関与する「組織」として決定されます。そのため、ターゲット企業をひとつの人格のように捉える「組織ペルソナ」と、その中にいる「個人ペルソナ」の2つをセットで作成することが非常に重要です。

BtoBのペルソナ設定方法は、次の章で詳しく解説します。


BtoBならではのペルソナ設定方法

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組織ペルソナの作り方

組織ペルソナは、アプローチすべき「企業」を具体的に定義するものです。どのような企業をターゲットにするかを明確にすることで、マーケティング活動の無駄をなくし、効率を最大化します。
組織ペルソナは、大きく分けて「① 企業属性(定量情報)」と「② 企業属性(定量情報)」の2つの側面から設定していきます。

① 企業属性(定量情報):どんな会社か?

・業種・業界:
 例:「製造業」「IT・情報通信業」「建設業」など。
 総務省の日本標準産業分類を参考にすると、より具体的に定義できます。
・事業内容:
 例:「自動車部品の製造・販売」「法人向けクラウド型ソフトウェアの開発」など。
 その企業が「誰に」「何を」提供しているのかを具体的に記述します。
・企業規模:
 従業員数: (例:50名未満、101-500名、1001名以上 など)
 売上高/資本金: (例:10億円未満、10億-50億円、100億円以上 など)
 企業の体力や、導入できるソリューションの予算規模を測る目安になります。
・所在地:
 本社や主要拠点の場所です。地域特有の課題や商習慣がある場合に重要です。
・業界でのポジション:
 例:「業界トップシェア」「急成長中のスタートアップ」「特定のニッチ市場に強み」など。
 競合との関係性や、業界内での影響力を示します。

② 企業の性質・課題(定性情報):どんな性格で、何に困っているか?

・企業理念・ビジョン:
 どのような価値観を大切にしている企業か。
 ウェブサイトのトップページや代表メッセージから読み解きます。
・社風・企業文化:
 例:「トップダウン型」「ボトムアップ型」「新技術の導入に積極的」「コストに非常に厳しい」等
 意思決定のスピードや、新しい提案への反応を予測する手がかりになります。
・事業上の目標・KGI:
 例:「売上〇〇円達成」「新規顧客獲得数〇〇%増」「海外市場への進出」など。
 その企業が今、何を目指しているのかを把握します。
・直面している課題・悩み:
 「目標達成を阻んでいる壁は何か?」という視点で考えます。
 例:「生産性が低い」「優秀な人材が採用できない」「競合の安売り攻勢で利益が圧迫されている」「既存システムの老朽化」など。
・情報収集の方法:
 例:「業界専門誌」「Webメディア」「展示会・セミナー」「取引先からの紹介」など。
 どこで情報を集めているかが分かれば、効果的なアプローチチャネルが見えてきます。
・購買決定のプロセス(DMU: Decision Making Unit):
 「誰が起案し、誰が情報を集め、誰が最終的に決裁するのか?」の意思決定フローと関係者を整理。

その企業の「人格」やや「内情」を深く掘りさげることは、コンテンツマーケティングや営業の提案内容を考える上で、最も重要な部分です。

登場人物ペルソナの作り方

購買に関わる「決済者」「推進者」「担当者」は、それぞれ役職やミッション、悩みが全く異なるため、個別にペルソナを設計することが極めて重要です。

決済者(Decision Maker)ペルソナ

会社の経営や事業の未来を左右する最終決定者です。主に役員や事業部長クラスが該当します。
この人の関心は「投資対効果(ROI)」と「事業成長への貢献」です。

【必要な情報項目】
・役職・役割: 取締役、事業本部長、工場長など
・ミッション(KGI):
 - キーワード: 売上・利益の最大化 コスト削減 経営リスクの回避 事業の競争優位性
 - 例: 中期経営計画の達成、事業部全体の利益率3%向上
・抱えている課題:
 - 会社の将来に関わる、経営レベルの大きな課題。
  - 例: 業界全体の市場縮小、イノベーションの不足、DX化の遅れ、株主からのプレッシャー
・情報収集の方法:
 - キーワード: 業界専門誌 日経新聞などの経済紙 アナリストレポート 経営者同士の繋がり
 - 詳細な製品情報よりも、市場トレンドや信頼できる第三者の評価を重視します。
・意思決定のトリガー(重視すること):
 - 「その投資は、会社(事業)の成長にどう繋がるのか?」
 - 例: 費用対効果(ROI)が明確である、競合に対する優位性が築ける、企業ブランド価値が向上する
・懸念点・反論:
 - 「本当に今、投資する必要があるのか?」「もっと優先すべき課題があるのでは?」
  「導入に失敗するリスクはないのか?」

推進者(Champion)ペルソナ

課題を最も感じており、解決策の導入を社内で働きかけてくれるキーパーソンです。
主に課長・マネージャークラスが該当します。
この人の関心は「部門・チームの課題解決」と「自身の評価」です。

【必要な情報項目】
・役職・役割: 部長、課長、チームリーダーなど
・ミッション(KPI):
 - キーワード: 業務効率化 生産性向上 部下の育成 チームの目標達成
 - 例: チームの残業時間20%削減、プロジェクトの成功、売上目標の達成
・抱えている課題:
 - 決済者と担当者の板挟みになりながら、現場を管理する上での具体的な課題。
  - 例: 人手不足で業務が回らない、部下から不満が出ている、競合に勝てない、
     上層部(決済者)を説得する材料がない
・情報収集の方法:
 - キーワード: 製品サイト 導入事例 比較サイト ウェビナー・セミナー
 - 決済者を説得し、導入を成功させるための論理的な情報や成功事例を求めています。
・意思決定のトリガー(重視すること):
 - 「これを導入すれば、自分のチームが抱える問題が解決し、目標を達成できるか?」
 - 例: 導入実績が豊富で安心できる、具体的な成功事例がある、サポート体制が手厚い
・懸念点・反論:
 - 「上司(決済者)をどうやって説得すればいいか?」「部下(担当者)は使いこなせるか?」
  「導入のプロセスが大変そう…」

担当者(User)ペルソナ

実際にその製品やサービスを日々利用する現場の担当者です。
この人の関心は「自分の仕事が楽になるか・便利になるか」です。

【必要な情報項目】
・役職・役割: 主任、一般社員、現場スタッフなど
・ミッション(日々の業務):
 - キーワード: 日々のタスク遂行 作業の正確性 業務の効率化
 - 例: 毎日のデータ入力、レポート作成、顧客対応
・抱えている課題:
 - 日々の業務における、個人的で具体的な「不満」や「面倒」。
 - 例: 今使っているツールの使い勝手が悪い、手作業が多くて時間がかかる
・情報収集の方法:
 - キーワード: 検索エンジン 使い方を解説したブログ SNS Q&Aサイト
 - 「どうすれば楽になるか」という観点で、直感的に分かりやすい情報を探します。
・意思決定のトリガー(重視すること):
 - 「これを使ったら、今の面倒な作業から解放されるか?」
 - 例: 操作が直感的で簡単、デザインが分かりやすい、今のやり方より時間が短縮できる
・懸念点・反論:
 - 「覚えるのが大変そう…」「今のやり方を変えるのが面倒」「導入により逆に仕事が増えるのでは?」

これらのペルソナに対して、それぞれに響くメッセージやコンテンツ、アプローチ方法を使い分けることが、BtoBマーケティング成功の鍵となります。

ペルソナをカスタマージャーニーマップへ反映する

ペルソナ設定が完了したら、カスタマージャーニーマップに反映させます。

カスタマージャーニーマップとは

カスタマージャーニーマップとは、顧客が製品を認知してから購入までのプロセスを、一連の旅に例えたものです。顧客が「いつ、どのような思考で、どう行動したか」を時系列にまとめて可視化することで、アプローチの戦略立案や最適化に活用します。

<参考>BtoB企業のカスタマージャーニーマップとは?BtoCとの違いやお役立ちツールを紹介

カスタマージャーニーマップで施策がより具体的に

ペルソナをカスタマージャーニーに活用すると、施策のタイミングや内容、訴求力のあるアプローチ方法、最適な広告媒体選択など、多くの顧客接点を具体化することができます。ペルソナは設定するだけでは宝の持ち腐れなので、カスタマージャーニーマップに落とし込み、マーケティング戦略立案の手がかりにすることが大切です。

<参考>効果的な施策立案に役立つ、カスタマージャーニーマップの作り方と活用法

ペルソナ作成における注意点

最後に、ペルソナの作成で注意すべきポイントを解説します。

データに基づいた顧客像を定義する

ペルソナ設定の精度を高めるためには、推論や仮説を避け、データに基づいて作成することが大切です。根拠が不正確だとその後の施策がすべて的外れになってしまうため、まずは正確で現実的なデータからペルソナの定義を行うようにします。

必要な情報のみを定義する

ペルソナ設定には詳細な生活者像が求められますが、不要な情報を盛り込む必要はありません。相反する情報が必要な場合は別の人物として定義するなど、情報過多で人物像がぼやけないように気をつけてください。

複数部門の意見を取り入れる

ペルソナ設定は少人数で作業せず、チームメンバーや他部門も巻き込んだ大人数で考えることが重要です。関係者全員がイメージしやすく、納得できるペルソナ像を作成し、共有するようにしてください。

定期的にペルソナを再考・更新する

生活者をとりまく価値観や社会は常に変化しています。そのため、一度作ったペルソナは運用開始後も定期的にブラッシュアップし、見直していくことが大切です。

ペルソナ設定でマーケティング戦略の最適化を

ペルソナの​設定は、​マーケティング施策を​はじめるに​あたって​欠かす​ことのできない​重要な​ステップです。​意味や​効果を​理解し、​自社サービスの​発展へと​つな​げてください。​

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執筆者
西村 由香(インハウスマーケター)
デジタルマーケターとして事業会社にマーケティングオートメーションの運用設計/ノウハウを提供、人材サービス企業の4事業部を統括するデジタルマーケティング責任者として従事。2023年より博報堂アイ・スタジオにて自社のデジタルマーケティングの仕組を構築・運用する傍ら、クライアント業務も実施。