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コミュニケーション設計の実施方法を徹底解説!戦略的なLTV向上のポイントとは?

西村 由香(インハウスマーケター)
2025-09-19
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コミュニケーション設計は、BtoBマーケティングにおいて欠かせない考え方です。
実は「問い合わせが増えない」「離脱が多くLTVが低い」といった悩みの多くは、コミュニケーション設計の見直しで簡単に改善できます。そこで本記事では、戦略的なコミュニケーション設計の作成方法を軸とし、重視すべき理由、便利なフレームワーク7つ、代表的なコミュニケーション施策など、網羅して解説します。
コミュニケーション設計におけるLTV向上のポイントも解説しますので、ぜひ施策改善の参考にしてください。

コミュニケーション設計とは

コミュニケーション設計とは、マーケティング活動を具体的な施策に落とし込むため「誰に、どの情報・コンテンツを、どのタイミングで、どのチャネルで提供するか」を戦略的に設定することです。

しかし、これは単に広告を打ったり、メルマガを送ったりする「点」の施策ではありません。顧客が自社を認知し、関心を持ち、最終的にファンになるまでの一連の体験(カスタマージャーニー)すべてにおいて、一貫したメッセージと価値を提供し続ける「線」の活動です。

優れたコミュニケーション設計は、顧客体験(CX)そのものを向上させ、目先の売上だけでなく、ブランドへの信頼とロイヤリティを醸成します。その結果として、後述する「LTV」の最大化につながるのです。

LTV(顧客生涯価値)とは?なぜ向上させるべきか

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、一人の顧客が、取引を開始してから終了するまでの全期間にわたって、自社にどれだけの利益をもたらすかを示す指標です。

LTV = 平均顧客単価 × 収益率 × 平均購買頻度 × 平均継続期間

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市場の成熟化や新規顧客獲得コストの増大が進む現代において、ビジネスを持続的に成長させるには、いかにして既存顧客と良好な関係を築き、長く取引を続けてもらうか、すなわちLTVをいかに高めるかが極めて重要になっています。

丁寧なコミュニケーション設計は、このLTVを構成する各要素に直接働きかけます。

  • 信頼関係に基づくアップセル/クロスセル  →  平均 顧客単価UP

  • 満足度の向上による継続利用  →  平均 継続期間UP

  • ロイヤリティ向上による指名買い  →  平均 購買頻度UP

このように、LTVの向上は、優れたコミュニケーション設計によってもたらされる必然的な成果と言えるのです。

BtoBでコミュニケーション設計が重要な理由

BtoBは検討期間が長く複数の意思決定者が関与するため、購入プロセスが複雑です。そのため「他社もやっているから」と明確な目標なしに施策を実施しても、精緻なコミュニケーション設計がなければ、以下のような失敗に陥りがちです。

失敗1. 商談のアポイントが取れない

例えば資料をダウンロードした顧客やイベントの参加者は、まだ情報収集・比較検討の段階です。ここで性急に営業電話をかけても、ニーズが顕在化していないため警戒されてしまいます。この場合、メルマガやセミナー案内などで有益な情報を提供し続けるなど長期的なフォローを行い、顧客の興味関心を高め、検討熟度を高めてからアプローチするなど、タイミングを計ったコミュニケーションが必要です。

失敗2. 問い合わせが増えない

いくらプロモーションなどを行っても問い合わせにつながらない場合、発信している情報が「本当に顧客の求めるコンテンツなのか」を見直すことが大切です。発信している情報が企業の一方的なアピールになっていては、顧客の心に響きません。「顧客が本当に知りたいことは何か?」という視点に立ち、企業がアピールしたいコンテンツではなく、課題解決に貢献するコンテンツなど、ターゲットのニーズに沿った訴求内容を提供し、信頼を獲得していくことが問い合わせへの第一歩です。

コミュニケーション設計で活用されるフレームワーク7選

ここでは、コミュニケーション設計に欠かせないフレームワークをご紹介します。

  1. STP分析
    STP分析は、ターゲットを明確にするためのフレームワークです。それぞれS:セグメンテーション(細分化)、T:ターゲティング(抽出)、P:ポジショニング(差別化)の頭文字で、S→T→Pのステップで分析します。

  2. ペルソナ
    ペルソナとは、自社が狙うべきターゲットを、具体的な人物像に落とし込んだものです。BtoBは関与者が多いため、ターゲットの属性に応じて複数のペルソナ設定が有効です。

  3. カスタマージャーニー
    生活者が認知から購買に至るまでの工程を想定、ペルソナを主人公とし、見込み顧客のニーズや情緒的変化、タッチポイント、利用後に至るまでの行動・思考・感情のプロセスを可視化します。
    参考記事:BtoB企業のカスタマージャーニーマップとは?BtoCとの違いやお役立ちツールを紹介

  4. ユーザーストーリーマッピング
    カスタマージャーニーを、特にWebサイトなどでの具体的なアクションレベルに分解し、「どの機能がなぜ必要か」を明確にします。優れたUI/UX、ひいてはデジタル上での円滑なコミュニケーション設計の実現につながります。
    参考記事:カスタマージャーニーマップをプロダクトの要件に落とすユーザーストーリーマッピングとは

  5. 3C分析
    3C分析はCustomer(顧客)、Competitor(競合)、 Company(自社)の3つの視点から、強み・弱みを分析するためのフレームワークです。効果的なマーケティング施策や市場戦略の検討に役立ちます。

  6. SWOT分析
    SWOT分析は、外部環境やリスクを考慮した戦略立案に有効な手法です。Strengths(強み)Weaknesses(弱み)Opportunities(機会)Threats(脅威)の4つの要素から、改善点や市場でのポジションなどを分析し、戦略の方向性を定めます。

  7. ブランドエクイティピラミッド
    顧客の心の中に強固なブランド価値を築くプロセスを、モデル化したものです。コミュニケーション設計が、ピラミッドのどの階層(認知→意味→反応→共鳴)を強化するのかを意識することで、一貫したブランド体験を届け、長期的なLTV向上に不可欠なブランドロイヤリティを育みます。
    参考記事:定着ユーザー育成に役立つ「ブランドエクイティピラミッド」とは?

コミュニケーション施策の代表的な手法

ここでは、コミュニケーション設計における代表的な施策について紹介します。なお、あくまでも顧客目線で「どのような施策が求められているか」をベースに手法を検討することを忘れないようにしてください。

  • オンライン・オフライン広告
    認知拡大のための新聞やテレビCMなどのメディア広告のほか、検索エンジンやSNSなど運用型のWeb広告が代表的です。

  • SNS
    Instagram、YouTube動画、Xなどでメッセージの発信を行います。ファン獲得やブランド力アップにも有効です。

  • コンテンツマーケティング
    ホワイトペーパー作成や、コラムなどオウンドメディア運用を通じて、生活者の課題を解決できる自社商品などの情報を公開します。

  • メール
    メールやメルマガ配信で、顧客と継続的にタッチポイントを作る手法です。潜在ニーズや興味を引き出すなど態度変容を促す役割もあります。

  • イベント・展示会
    製品の体験イベントや展示会を開催し、新規顧客の獲得につなげます。オンラインでのセミナー(ウェビナー)の開催も活発です。

  • DM・チラシ
    既存顧客に直接DM(ダイレクトメール)やチラシなどを送付します。

  • プレスリリース
    プレスリリースは、企業の動きを新聞やWebメディアに掲載してもらう手法です。自社の信頼度アップや認知獲得を狙います。

  • 人的販売
    人的販売とは訪問販売や電話、実店舗での接客など、対面で行うセールスです。直接対応や提案が可能なだけでなく、不満や要望などリアルな消費者の反応を把握する場にもなります。

戦略的なコミュニケーション設計の作成方法

コミュニケーション設計に一貫性を持たせるためには、正しい手順に沿って制作するとスムーズです。

  1. ターゲットの明確化
    STP分析で自社のターゲットを絞りましょう。既存顧客を属性ごとにセグメント分けすれば、ターゲット層を可視化しやすくなります。

  2. 自社の市場ポジショニングの明確化
    次に、3C分析やSWOT分析を活用して、どの立場からターゲットへアプローチすべきかを検討します。競合との優位性の確立、提供する価値など、自社にしかないメリット・特徴を整理します。

  3. ペルソナの設定
    ペルソナ設定では、ターゲットに沿って顧客データを分析し、理想の生活者像を具体化します。社内の営業担当者やカスタマーサポートなどの窓口担当者にもヒアリングを行い、イメージ写真などを利用するとより効果的です。
    参考記事:BtoBマーケティングはペルソナ設定が重要!作成手順とテンプレートを紹介

  4. カスタマージャーニーの作成
    ペルソナのストーリーを購買プロセスごとに可視化し、生活者の行動や心理状態、タッチポイントをシナリオ化してください。
    参考記事:効果的な施策立案に役立つ、カスタマージャーニーマップの作り方と活用法
    参考記事:BtoB企業のカスタマージャーニーマップとは?BtoCとの違いやお役立ちツールを紹介

  5. 施策の立案
    コミュニケーション施策から、最適な施策を選定します。このとき、ペルソナに合わせて訴求力の高いチャネルやクリエイティブ、予算などのバランスもあわせて整理しておくことが大切です。
    参考記事:カスタマージャーニーのタッチポイント強化は顧客体験向上の鍵

  6. KPIの設定
    施策の目標(ゴール)を達成するためのKPIツリーを作成します。KPIは客観的な数値指標を入れ、データ計測の手段を決めておくことがポイントです。

  7. 実行と効果検証(PDCA)
    複雑なBtoB市場で成果を上げ続けるためには、施策実行後の効果検証は欠かせません。素早くPDCAサイクルをまわし、常にコミュニケーション施策の改善を続けることを意識してみてください。
    参考記事:カスタマージャーニーマップをプロダクトの要件に落とすユーザーストーリーマッピングとは

LTVを向上させるコミュニケーション設計

LTVを最大化するためには、具体的にどのようなコミュニケーション設計を心がければ良いのでしょうか。ここでは3つの重要なポイントを解説します。
参考記事:定着ユーザー育成に役立つ「ブランドエクイティピラミッド」とは?

1. 顧客ステージに合わせた継続的な価値提供

LTVアップには新規顧客獲得に加え、既存顧客の離脱率や解約を防ぐことも重要です。そのためには、まず顧客データを分析し、顧客の検討プロセスにおける離脱ポイントを見つけ、コミュニケーションによってカバーする必要があります。

顧客目線でみた自社サービスに欠陥がないかチェックしましょう。「Webサイトの使用感が悪く休眠した顧客」や、「過剰なメールや電話の結果離脱した顧客」など、原因を見つけて改善すればLTV向上につながります。

その上で、顧客との関係をより強固なものにするためには、顧客のステージ(検討→購入→利用定着→ロイヤル化)に応じて、一貫して価値を提供し続けるコミュニケーション設計が求められます。

  • 検討〜購入段階
    製品の比較資料や導入事例、第三者評価などの客観的なコンテンツを提供し、顧客の不安や疑問を解消して購買を後押しします。

  • 利用定着段階
    購入後の顧客に対しては、スムーズな導入を支援するオンボーディングプログラムや、製品の応用的な使い方を解説するウェビナーなどを実施し、「買ってよかった」という成功体験を積んでもらいます。これが利用継続率の向上に直結します。

  • ロイヤル化段階
    長く利用している優良顧客には、新機能の先行案内やユーザー限定コミュニティへの招待など、特別なコミュニケーションを通じて感謝を伝え、さらなるアップセルやクロスセル、新規顧客の紹介へと繋げます。

2. データとツールを活用したパーソナライズ

全ての顧客に同じメッセージを送るのではなく、一人ひとりの状況に合わせたアプローチがLTV向上を加速させます。顧客へのフォローや関係構築にはCRM(顧客関係管理)、LTV向上に不可欠なOne to Oneマーケティングの自動化・効率化にはMA(マーケティングオートメーション)など、自社に必要なツールを見極めて、うまく取り入れていくことが大切です。
参考記事:生活者・ユーザーと継続的な関係性を築くためのDXを推進するサービスアーキテクチャ

これらのツールに蓄積された顧客データ(Webサイトの閲覧履歴、購買履歴、問い合わせ内容など)を分析することで、「特定の料金プランのページを何度も見ている顧客に、そのプランに関する詳細資料をメールで送る」といった、パーソナライズされたコミュニケーションが可能になります。

近年ではAIを活用し、顧客の次の行動を予測したり、解約の予兆(チャーン)を検知して先回りしたフォローを行ったりと、より能動的にLTV向上を仕掛けることも可能です。Cookieレス化が進む中、こうした顧客との直接の対話で得られる1stパーティデータの価値はますます高まっています。

3. 顧客の声(VoC)をサービスとコミュニケーションに反映する

優れたコミュニケーションは双方向です。企業からの一方的な情報発信だけでなく、顧客の声(VoC: Voice of Customer)を積極的に収集し、事業活動に活かす仕組みが不可欠です。

アンケートやインタビュー、ユーザーコミュニティなどで得られた顧客の要望や不満を、製品・サービスの改善に活かすのはもちろんのこと、「お客様のご意見をもとに、この機能を改善しました」と報告すること自体が、非常に強力なコミュニケーションとなります。顧客は「自分の声が届いている」と感じ、企業への信頼とエンゲージメントを深めます。このポジティブな関係性のサイクルこそが、LTVを持続的に高めていくのです。

施策で成果を出すためにもコミュニケーション設計

BtoBマーケティング戦略を考えるにあたって、自社のポジションやターゲットにあったコミュニケーション設計を行うことが重要です。「施策」にばかり目を向けるのではなく、顧客のニーズや要求に応えるコミュニケーションを実施することではじめて成果につなげることができ、顧客一人ひとりと向き合いその体験を豊かにすることでLTVは向上し、事業は着実に成長していきます。

もしこれから自社でコミュニケーション設計をするところでしたら、弊社のカスタマージャーニーマップテンプレートをぜひご活用ください。また、作成中にマーケティング施策の決め方や進め方にお悩みがでてきたら、弊社株式会社博報堂アイ・スタジオまでご相談ください。状況を細かくヒアリングさせていただいた上で経験豊富なマーケティングコンサルタントが幅広くサポートいたします。

執筆者
西村 由香(インハウスマーケター)
デジタルマーケターとして事業会社にマーケティングオートメーションの運用設計/ノウハウを提供、人材サービス企業の4事業部を統括するデジタルマーケティング責任者として従事。2023年より博報堂アイ・スタジオにて自社のデジタルマーケティングの仕組を構築・運用する傍ら、クライアント業務も実施。