1.はじめに
データマーケティングで活用されるデータは、その出所によって大きく3種類に分類されます。それぞれの特徴と、それらを整理・保管するための「箱」となるデータベースについて理解することが、データ活用の第一歩です。
1.1. ファーストパーティデータ(1st Party Data)
企業が自社の顧客から直接収集した、Webサイトの行動履歴や購買データなどを指します。ユーザーから取得したデータであるため、信頼性と正確性が高いのが特徴で、データマーケティングにおける最も重要なデータです。 このデータを格納する基盤としてCDP(顧客データ基盤)やプライベートDMPがありますが、両者には目的の違いがあります。プライベートDMPが広告配信最適化のために匿名のデータを主に扱うのに対し、CDPはメールアドレスなどと紐づいた実名データやオフラインデータも統合し、顧客一人ひとりを深く理解してマーケティング全体に活用することを目指します。

1.2. セカンドパーティデータ(2nd Party Data)とDCR
他社が収集したファーストパーティデータを、パートナーシップ契約などに基づいて利用するデータです。提供元が明確で信頼性が高く、Cookie規制によってサードパーティデータの活用が難しくなる中で、自社のデータだけではリーチできない層へのアプローチや顧客理解を補完するための、信頼できる外部データとして戦略的な価値が高まっています。この安全なデータ連携を技術的に支えるのが「DCR(データクリーンルーム)」です。これは、各社が保有する顧客データを直接交換することなく、プライバシーが保護された安全な環境下でデータを突合・分析できる仕組みです。ただし、その活用は、データ提供元との強固な信頼関係と、何よりも顧客から第三者提供に関する適切な同意が得られていることが大前提となります。

1.3. サードパーティデータ(3rd Party Data)とパブリックDMP
自社とは直接関係のない第三者企業が収集した外部データです。かつては、このデータをパブリックDMPを通じて利用し、サイト横断で追跡したユーザーの興味関心(例:「車に興味がある層」)に基づいた広告配信が広く行われていました。しかし、プライバシー保護の潮流とサードパーティクッキーの規制強化により、このような手法はかつてに比して、その有効性を大きく失っています。
2.データ活用の考え方の変化
かつて主流だった、サードパーティデータを組み合わせる「データのリッチ化」は、プライバシー保護強化とCookie規制により、その有効性を失いました。サイトを横断したユーザー追跡が困難になり、同意が不透明なデータで顧客像を「推測」する従来の手法は通用しなくなっています。
この変化を受け、現代のデータマーケティングで主役となる考え方は、顧客本人の明確な同意のもとで収集する、質の高いファーストパーティデータへと、その軸足を移しています。
セカンドパーティデータの活用も、この哲学に基づいています。それは従来の「リッチ化」とは異なり、信頼できるパートナー企業との間で、同意に基づいたデータを連携させることで、顧客理解を深めるための、透明性の高いアプローチなのです。
2.1. なぜ今、ファーストパーティデータ活用が重要なのか
前述のとおり、サードパーティデータに依存したマーケティングが困難になる中で、企業が顧客から直接同意を得て収集した、信頼性の高いファーストパーティデータが、今後のデータマーケティングの活用を担う一翼となっています。
ファーストパーティデータを活用することで、以下の3つの大きなメリットが期待できます。
顧客理解の深化:
顧客の属性情報や行動履歴を直接分析することで、より解像度の高い顧客像を描き、一人ひとりのニーズに合ったアプローチが可能になります。LTV(顧客生涯価値)の向上:
顧客との継続的な関係性を築き、リピート購入やクロスセルを促進することで、長期的な収益向上につながります。巨大プラットフォーマーへの広告依存からの脱却:
サードパーティクッキーが使えなくなる一方、GoogleやMeta(Facebook/Instagram)といった巨大プラットフォーマーは、自社の「壁に囲まれた庭(ウォールドガーデン)」の中でユーザーデータを活用し、高い精度の広告を提供し続けます。しかし、これらプラットフォームへの依存は、広告費の高騰や規約変更のリスクを伴います。自社でファーストパーティデータを活用することは、この依存から脱却し、自社の資産で持続可能なマーケティング活動を築く上で不可欠です。
2.2. 成果を出すための目標設定とKPI
データ活用を始める前に最も重要なことは、「データを使って何を達成したいのか」という目的(KGI)を明確にすることです。目的から逆算して具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することで、データ活用の方向性が定まり、施策の評価・改善がしやすくなります。
(例:KGI「リピート率10%向上」→KPI「メルマガ開封率」「休眠顧客の再訪数」など)
3.データ活用の4つのプロセス
データ活用を成功させるためには、体系だったプロセスが不可欠です。多くの企業では、以下の4つのプロセスを経て成果につなげています。
顧客データの収集
Webサイトの行動履歴や購買履歴といったオンラインデータに加え、店舗のアンケートなどオフラインの接点からも、顧客を理解するための情報を幅広く収集します。データの統合と管理
さまざまな場所に散在するデータを、CDPなどのプラットフォームを用いて顧客一人ひとりを軸に紐づけます。これにより、データが分析・活用できる資産へと変わります。データの分析による顧客理解
統合したデータから顧客をグループ分け(セグメーテーション)し、行動パターンを分析します。RFM分析のようなフレームワークも活用し、顧客の隠れたニーズやインサイトを発見します。施策の実行と改善
分析結果に基づき、セグメントごとにパーソナライズされたメールを送るなど、具体的なアクションを実行します。その結果を検証し、改善を繰り返す(PDCAサイクル)ことが大事です。
3.1. プロセスとツールの関係性
これらのプロセスは、それぞれ専門のツールによって支えられています。各段階の役割は以下のとおりです。

収集: GA4(Web分析)やSFA(営業支援)、MA(マーケティング施策)など、顧客とのあらゆるタッチポイントでデータが発生します。
統合・管理: 社内の全データを保管するDWH(データ倉庫)の中から、マーケティングに必要なデータをCDP(顧客データ基盤)が顧客ごとに整理します。このCDPには、専門的なTreasure Dataや、HubSpotのようにMA/CRMが進化した統合型プラットフォームもあります。
分析: CDPの機能やBIツールを接続して、より深いインサイトを発見します。
実行: 分析結果に基づき、MAツールがメール配信などのマーケティング施策を、SFAツールが営業担当者のアプローチを支援します。
4.データ活用を推進する上での注意点
ファーストパーティデータを活用する上で、忘れてはならないのが個人情報保護への配慮です。改正個人情報保護法などの関連法規を必ず遵守し、データの取得時には利用目的を明示して適切に同意を得ることが大前提です。
5.最後に
本記事では、データ活用の基本から、現代における重要性、具体的なステップを網羅的に解説しました。
Cookie規制という大きな変化は、企業が顧客と真摯に向き合い、信頼に基づいた関係を築くための絶好の機会です。そのための最も強力な武器が、顧客から直接預かったファーストパーティデータに他なりません。
まずは自社にあるデータを整理し、小さな施策から試してみる「スモールスタート」が重要です。この記事が、貴社のデータマーケティングを次の段階へ進めるきっかけとなれば幸いです。