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デザイナー視点で考える、イラストスキルの活かし方

内山晃輔(デザイナー)
2025-12-19
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こんにちは。
デザイナー6年目の内山です。

「デザイナーは絵が描けないといけないのか」

これはデザイナーとして働く中で、よく挙げられる質問だと思います。
今回は、僕が業務をこなす中で感じた「デザイナーとイラストスキル」についてお話できればと思います。

これまでの経歴

いきなりですが、僕は絵を描くことが好きです。

大学では主にデザイン思考の研究をこなす傍ら、二科展にアナログで描いたイラストを出展するなど、今の職業とはかけ離れたことをしていました。ただデザインを深く学んでいくうちに、企画やアイデアを考える楽しさ、そしてそれを自らの手でカタチにすることに魅力を感じ、イラストレーターという選択肢もありましたがデザイナーの道を選びました。
博報堂アイ・スタジオも、上記で述べたような仕事ができるのが決め手となり入社しました。現在はその環境を活かし、幅広い領域でデザインを担当しています。

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二科展での受賞歴

ここで、僕がこれまで描いてきたイラストについて軽く紹介できればと思います。

これは、大学3年時に二科展へ出展し、その年のデザイン・ポスター大賞を受賞した作品(左)とそのシリーズです。このイラストは、ケント紙に不透明水彩絵の具(小学生がよく図工で使う絵の具)を塗り重ねるというアナログな手法で制作しました。

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なぜ信号機と鳥居を描いたのかというと、信号機が好きだからです。
何を言っているかわからないと思いますが本当です。

信号機が立つ場所には、「これから何かがここを通る」という確かな事実があります。例えばありえない場所に設置された信号機があるとします。その光景を目の前にしたとき、「この場所でこれから何が起こるのだろう?」「何が来るのだろう?」という予測不能なワクワクを感じる。これが僕が信号機を好きな理由です。

一方、この信号機を社会という大きな視点で捉え直すと、全く別の意味を持つモチーフにも見えてきます。現代を生きる我々の行動は、どこか機械的に統制されています。信号機は人の移動を制限し、行動を抑制し、コントロールする、まさに機械化された社会を象徴するモチーフでもあります。
ある米国のカリスマ経営者の名言に「自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう」というメッセージがあります。これを作品に添え、現代社会に疑問を呈するポスターとして出展しました。(あとシンプルに信号機描きたかった。)

そもそもデザイナーに「絵力」は必要なのか

「デザイナーに絵を描く力は必要ですか?」
と聞かれることがありますが、これは必須だとは全然思いません。
絵を描くことが苦手なデザイナーはいると思います。代わりに、モーションや演出が得意なデザイナー・UIに長けたデザイナーなど、多くのデザイナーがそれぞれの強みを活かして活躍されています。

しかし、もしかしたらイラストも強みの一つとしてデザイナー業務に活用できるのでは?と最近の案件を通して思うようになりました。そして、今回はその中でも特に大切だと感じた2つの「絵力(えぢから)」についてお話しできればと思います。

デザインのクオリティーを高める絵力

まず1つ目は、シンプルに「デザイン全体のクオリティーを高める絵力」です。

絵が描けることは、僕の武器であり、デザインの表現力、そしてイメージの再現力アップに直結しています。
まず、表現力に関してはテキストや画像の要素をイラストと複雑に絡めたレイアウトを考えたり、アニメーションをイラストと効果的に掛け合わせるなど、より幅広く自由度の高いアイデアを具体的に考えることができます。

そして、もう一つ重要なのが、頭の中で描いたイメージを再現する力です。たとえ魅力的に感じる理想のイメージが自分の中にあったとしても、それをカタチにする術がなければ伝わりません。何に魅力を感じるかは人それぞれですが、少なくとも自分が思いついた魅力を、デザインを見る側も同じような魅力として感じられるよう再現することは、とても大事なスキルのように感じます。自分が感じた魅力を精度の高い状態で再現し伝える術があることで、初めて自分の納得のいくデザインや表現にたどりつくと思います 。

また、Webサイトにレイアウトするイラストをプロのイラストレーターさんに発注することもあるのですが、その際言葉だけでは補いきれないわずかな認識のズレが生じることがあります。そこで、オリエンする際はなるべく具体的なラフを描いて共有することで、デザインとしっかり噛み合ったイラストに仕上げてもらうことができます。そして、そのイラストをデザインに取り入れることで、全体的にトンマナの統一されたWebサイトを形にすることができます。

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コミュニケーションの質を高める絵力

続いて「コミュニケーションの質を高める絵力」です。

どちらかというと、こちらの方がデザイナー業務において重要な役割を果たしているような気がします。僕はよく得意先やメンバー間におけるやりとりで、時間をかけずにラフを描いて説明することがあります。そしてこのコミュニケーションには2つのメリットがあると感じています。

1つ目のメリットは、先ほどと被る部分もありますが、やはり齟齬なくコミュニケーションができることです。雑でもその場で「こういうことですか?」と相手のイメージを具現化することで、議論が一気に深まりより質の高いコミュニケーションが生まれます。そして、お互いが納得できるアウトプットにつながります。
しかし、曖昧なやりとりでデザインを進めてしまうと、認識のズレや大事なポイントが汲み取れず、後に大幅な修正が発生する可能性があります。はじめにラフを素早く作成しイメージを共有することで、そういった事態を防ぎデザインをブラッシュアップする時間をしっかり確保することができるのだと思います。

2つ目のメリットは、得意先の期待値を高められる点です。デザインの初期段階で仮のビジュアルが使用されている場合、最終的なイメージが想像できず不安が生じる可能性があります。しかし、ある程度内容が想起できるラフを提示することで、しっかりとイメージを伝え、得意先のデザインに対する期待値を高めることができます。

「描くのが好きだから・得意だからデザインに取り入れよう」ではなく、理想のアウトプットに近づくためには、どのくらいのクオリティーのラフを・どのくらいの早さで・どのタイミングでつくってコミュニケーションをとるべきか見極めることが重要だと思います。

求められる「デザインの価値」

最終的なアウトプットの質はもちろん重要です。

ただ、それだけではなく、僕は完成に至るまでのコミュニケーションやプロセスにどれだけ納得し自信を持てるのかがカギであると考えています。

ラフをもとに、言葉だけでは見えてこない意見やアイデアを具体的に引き出し、そこから生まれるコミュニケーションをアウトプットにつなげる。イラストや画像が一瞬で生成できる時代において、メンバー全員が意見を出しきり、納得しながらつくりあげていく過程にこそデザインの価値はあり、今後より一層デザイナーに求められていくスキルだと感じています。そしてこの価値をより高めていくために、僕は前述した2つの絵力を駆使してプロセス・アウトプットともにクオリティーを高めていくことが重要だと思います。

最後に、AIのように自分たちが想像もしなかったテクノロジーが登場することは、これからもあると思います。デジタル媒体のデザインを扱う以上、そういったトピックを常に把握し業務に取り入れることは求められると思います。一方で、その場でラフで描き起こし可視化するといった一見アナログな手法も、実は同じように不可欠だと考えます。テクノロジーの波が押し寄せさまざまな技術が複雑に世の中と絡み合っていく中で、今後も、デジタルとアナログ、それぞれの良さを活かしたデザインに挑戦していきます。

執筆者
内山晃輔(デザイナー)
2020年博報堂アイ・スタジオにデザイナーとして新卒入社。
Webデザインをはじめ、SNS/撮影/企画など、さまざまなジャンルのデザイン・アートディレクションを行う。趣味・仕事ともに絵を描いたりつくったりすることが好き。最近は平面だけでは飽き足らず、石粉粘土やオーブン陶土でいろいろつくることにハマりだしている。