BACK

グロッサリーチェックとは?広報の情報発信に欠かせないプロセスの重要な役割

秋谷 寿彦
2026-02-20
xfacebookline

博報堂アイ・スタジオ(以下、アイスタ)の広報活動において、記事やコンテンツの対外発信にあたり、「グロッサリーチェック」と呼ばれる文言の校正作業にこだわっています。これは企業の情報発信において欠かせないプロセスですが、その重要な意味をご存知でしょうか。

本記事では、アイスタ広報内での校正作業について解説しながら、その作業に「なぜこだわるべきなのか」についてさまざまな視点からご紹介します。

「対外向け発信文言グロッサリー」とは何か

はじめまして、秋谷です。
私はアイスタで長年、広報を担当するなか、外部発信情報の作成や校正に携わってきました。現在は外部発信する文言の統一を目指し、独自開発の「グロッサリー」をもとに運用しています。

そもそも「グロッサリー」とは、文書内の特定の単語やフレーズに対して、どのような表記を使用すべきかをあらかじめ定めたリストのようなもの。ある分野における「用語集」や「小辞典」といった意味で、執筆上のルールとして用いられます。

アイスタでは、広報チームが運用する『対外向け発信文言グロッサリー』という独自のルールに基づいて、プレスリリースやWebサイトなどのコンテンツを対外向けに発信する際には、グロッサリーチェックを念入りに行います。このルールは、共同通信社発行の『記者ハンドブック 新聞用字用語集』と、アイスタの個別ルールに準拠しており、その名のとおり対外向けの文言を標準的な形に統一させるうえで大いに役立っています。

対象となるのは、主に以下の広報コンテンツです。

  • プレスリリースの文言

  • コーポレートサイトに掲載する文言

  • 外部に配信するメールマガジンの文言

  • 外部の方に提供する各ソリューションを紹介する資料やeBook

たとえば、「3カ月」という表記。この他にも「3ヵ月」「3ヶ月」「3ケ月」「3箇月」とさまざまな表記方法がありますが、私たちのルールでは原則として「3カ月」という表記に統一しています。

「博報堂アイ・スタジオ」はどうでしょうか。実は、上記のルールに基づくと「博報堂アイスタジオ」や「アイ・スタジオ」といった表記はNG。原則「博報堂アイ・スタジオ」、あるいは愛称として「アイスタ」の表記のみが使用できることになっています。このほかにも「敬称の使い方」から「企業の正式名称」などの具体的な記載方法を、用例とともにまとめています。

この作業のために『記者ハンドブック 新聞用字用語集』を採用しているのは、使用する文言を記者の方が日々使っている「メディアの言葉」に合わせることで、プレスリリースをはじめとする情報がパブリシティとして取り上げられやすくなることを期待しているためです。メディアとのコミュニケーション手法のひとつとして、非常に重視しています。

たとえば、「サーバー」や「セキュリティー」といった表記が「サーバ」や「セキュリティ」と記載されているものも見かけますが、NHK放送文化研究所をはじめとするメディア機関は、元となる英語の表記に基づくルールに則り、前者を採用しています。

さらにアイスタでは、この校正作業の仕組みづくりにAIを活用しています。AIにルールをインプットさせることで、より速く高精度なチェック体制を実現。まだ発展途上ではあるものの、試行錯誤のうえ用意したプロンプトを使い、誤字や脱字だけでなく、上述の「3ヶ月」や「アイ・スタジオ」のような独自の表現の誤りも検出させ、作業効率を向上させています。

undefined

グロッサリーチェックの始まり

この作業が始まったきっかけは、今から10年以上前のこと。

アイスタのライターたちの間で、コーポレートサイト内での発信の際に「表記を統一したほうがいい」という話が持ち上がるようになりました。最初はメモ書き程度のものを使って運用していましたが、やがて「得意先名」や「敬称の使い方」など間違えてはならない表記のルールがどんどん増えていくにつれ、メモ書きで対応することに限界が生じてくるように。そこで、明確なルールをグロッサリーにまとめることにしたのです。

それ以来、その時々で世の中の状況を都度反映し、適宜ルールの見直しや追記を行うことでアップデートを続けています。

グロッサリーチェックの重要な意味

実はこの作業をすることで、広報活動においてはさまざまなメリットがあります。

たとえば誤字脱字、表記ゆれをなくし文言の表記を統一することは、正しい意図を伝え読み手にとって理解しやすい内容にするということであり、離脱率の低減やクライアントからの信頼性向上につながります。特に、企業名や商品名の表記にあたっては注意が必要です。発音と実際の表記が異なる場合など、絶対に間違えられない文言の発信の際には、きちんとチェックすることで万が一のリスクを回避できます。

また、時代背景や社会通念が流動的に変化している現代社会では、差別的表現や不適切な言い回しがないかを厳しくチェックする必要が高まっています。多様性の尊重が求められている現代では、かつては一般的に使われていた言葉であっても、ジェンダー・ステレオタイプやルッキズムに該当する場合があります。
常に最新の社会情勢や言葉遣いをキャッチアップし反映していくことで、企業の情報発信におけるリスクを回避し、信頼性と倫理観を守るブランディングにつなげることができます。

さらに、こうして向上されるコンテンツの信頼性の高さは、SEOの高評価にもつながります。手間をかけて文言を厳しくチェックすることには、企業の戦略的な意味もあるというわけです。

デジタル化が加速する現代社会では、企業が発信するWebサイトの情報や顧客向け資料、記事は企業の「顔」そのもの。表記・表現上の誤りは、企業イメージそのものに対して疑問を抱かせかねません。

グロッサリーチェックをすれば、こうしたさまざまなトラブル防止が期待できます。

人間とAIの二刀流

ところで、ルールに則ってすばやく正誤判定ができるAIを活用しているなら、あえて人間の手で作業することにはどんな意味があるのでしょうか?

アイスタでは、大きく分けて2つの理由から、人間によるチェックも重視しています。

1つ目は、AIの精度の問題。素早いチェックが得意なAIですが、その正確性はまだまだ不完全です。AIは状況に応じて表記の仕方を選択しなくてはならないケースには弱く、その都度の最適な表現に対する「判断力」は現状高いとは言えません。たとえば、「共に」と「ともに」という表現。「~と一緒に」というニュアンスの場合は前者を、「〜と同時に」のニュアンスの場合は後者の表記を使用することになっていますが、AIがこれを正しく区別するのは困難です。また、不適切な表現を検知しなかったり、適切な文章からエラーを検出することもあります。現時点では、人間の目とのダブルチェックは不可欠です。

2つ目は、「人の心を動かす文章」の作成には、やはり人の手が加わる必要があるということ。AIは文法や用語の「正しさ」は理解できても、それが本当に読み手の心を揺さぶるものかどうかの検討や、記事の文脈、トーン&マナーに合ったものか、ということまでは判断しきれない部分があります。人の感情や想いに寄り添う発信のためには、人の手が加わることが重要です。

とはいえここ最近、AIと人間の「お互いの得意」を補い合った作業で、高い精度でスピーディーに発信できるようになってきたと思います。そしてAIの技術進化により、既に文脈までチェックできるようになっている可能性も感じています。頼り切るのはまだリスクを伴いますが、今後の情報発信におけるAIのより高精度で迅速なチェック機能の活用で、加速度的な作業効率向上に期待しています。

undefined

まとめ

今回はアイスタ広報が取り組む「グロッサリーチェック」と、その作業の意味について解説しました。

一見して表記が「正しいか誤っているか」というだけの問題に捉えられがちですが、その背後には企業に向けられる信頼性・ブランドイメージの保護や離脱率の低減、そしてあらゆるリスクを防ぎ、SEOの評価へとつなげていく重要な戦略的役割が隠れています。

前に述べたように、時代の潮流にフィットしていない文章の発信は、企業イメージを損ないかねない重大な問題へとつながります。そのため、表記・表現をアップデートすることを大切にしながら、AI技術の進歩と人間の表現力を掛け合わせた発信をすることが求められているわけです。

執筆者
秋谷 寿彦
2003年に博報堂アイ・スタジオに入社。2010年より広報業務に従事し、2011年の東日本大震災をきっかけに「チャリティー年賀状」の取り組みを開始し、2023年までの12年間実施。また、ISO14001の認証継続のためにも尽力。現在は、販促広報担当として運用に携わっている。