デジタル化が加速する現代において、Webサイトやアプリの制作は単なる業務の代替や効率化の手段にとどまらず、顧客体験全体の改善やデータ収集の重要なチャネルとなっています。このような背景から、制作会社への依頼を成功させるためには、発注側と受注側が共通の認識を持ち、円滑なコミュニケーションを図ることが不可欠です。その「共通言語」となるのが、RFP(Request for Proposal)、すなわち「提案依頼書」です。
Webやアプリ制作における制作会社の選び方
数年前までは、いかに廉価で制作できるか、いかに集客できるか、いかに話題性を作れるか、といった観点で制作会社を評価されることが多かったと思います。今でもそうかもしれません。
しかしデータが顧客体験全体の改善に大きく寄与するようになった時代では、それだけでは十分ではありません。データを用いた顧客体験改善やデジタルマーケティングについての知見をもち、ビジネスにおけるデータ活用の勘所を理解したうえで、目前の制作物を定義、制作できる能力が求められます。
Webやアプリの制作においては、デジタルに適切な理解のあるパートナーを選ぶことが重要です。
制作会社との適切な関わり方
Webやアプリ、各種のシステムが既存の業務の代替もしくは効率化の手段でしかなかった場合は、制作会社や開発会社に発注してあとはおまかせ、で良かったかもしれません。
しかしデータが経営において非常に重要な位置を占めるようになった昨今では、データ収集チャネルとしてWebやアプリがどうあるべきか、ということをビジネスレベルの話として議論する必要があります。
どういったデータをすでに持っていて、どういったデータが足りず、どのように活用し、どのように改善のフローを加速させていくのか? 上流でこうしたデータマーケティングの設計をしてはじめて、各タッチポイントであるWebやアプリの設計に「下りていく」ことができるのです。
こうしたデータを用いた経営や顧客体験改善は、発注側がもつ現場の知識と、受注側が持つ知識が組み合わせることで生まれます。
そのため発注側と受注側が相互に自由闊達な議論ができる関係性をもつことが非常に重要です。
データやデジタルに関してパートナーであるべき制作会社に対して敬意を欠いた姿勢をとることは、自由闊達な議論をさまたげることに繋がり、倫理的な問題に加え、ビジネス面での損失に繋がります。
RFPの意義と、制作会社との「共通言語」としての重要性
RFPとは、「Request for Proposa」の略で、日本語では「提案依頼書」と訳されます。これは、システム選定・導入・構築やリプレイス時に不可欠な資料であり、主にシステム開発や導入の現場で使われる用語です。
発注側がRFPによって自社の課題や導入目的、要望などを明確に示すことで、ベンダーとの意思統一ができ、トラブル防止につながります。RFPの意義は、理想的なシステム構築に向け最適な提案を引き出すことにあります。
RFPの有無による違い
RFPがない場合:要件が不明確なため、ベンダーは提案内容を推測せざるを得ず、後々の認識齟齬や追加コスト発生のリスクが高まります。
RFPがある場合:現状の課題と実現したいシステムを明確にすることで、ベンダー側は最適な提案を提示し、正確な見積もりを算出できます。
特にWebサイトやアプリの制作においては、データが経営において非常に重要な位置を占めるようになった昨今、Webサイトやアプリがデータ収集チャネルとしてどうあるべきか、ということをビジネスレベルで議論する必要があります。RFPは、こうしたデータを用いた経営や顧客体験改善において、発注側が持つ現場の知識と、受注側が持つ専門知識を組み合わせるための基盤となります。RFPの精度はプロジェクトの動き出しに大きく影響し、資料フォーマットはWord形式ファイルやPowerPoint形式ファイルが一般的です。
RFPに記載する内容(構成要素)
RFPに記載する内容は、発注側の現状課題とあるべきシステムを明確に打ち出すことが重要です。最低限、以下の項目を盛り込むことが望ましいとされています。
表題
背景
プロジェクト概要
プロジェクトの目的
プロジェクトの目標KPI
プロジェクトの目標に対しての課題意識
プロジェクトの前提条件
プロジェクトの予算
テスト要求
移行要件
案件依頼内容
課題解決提案、見積り、体制、概算スケジュール、質問の期限、提出期限、プレゼンの日程、時間帯の指定
RFP作成のメリット
RFPを作成することには、発注側にとって多くのメリットがあります。
要件・要望を正確に伝えられる
発注側が求めるシステムやサービスの内容を明確にし、ベンダーに正確に伝えることができます。システムに期待していることは全て記載することが重要です。
複数の提案を効率よく比較できる
同等の条件で各ベンダーからの提案を比較検討できるため、効率的な選定が可能です。業務委託先の選定根拠を明確にできます。
トラブルを未然に防げる
発注側と受注側の間で認識齟齬が生じるリスクを低減し、プロジェクト進行中のトラブルを未然に防ぎます。
自社を客観的に見直せる
RFP作成の過程で自社の現状課題や目的、要件を深く掘り下げることで、自社を客観的に見つめ直し、新たな発見につながることもあります。
明確な目標のもと仕事を任せられる
RFPによってプロジェクトの目標が明確になるため、ベンダーは具体的な目標に向かって提案・作業を進めることができます。
RFP作成時の主な注意点
RFPの作成は、プロジェクトの成功を左右する重要なプロセスです。以下の点に注意して作成しましょう。
目的や課題、要望を正確に伝える
曖昧な表現を避け、具体的な内容を記載することで、ベンダーはより適切な提案を行うことができます。システムに期待していることを誇張して記載しないことも重要です。
追加要求は「後出しじゃんけん」になる
プロジェクト開始後の要件変更や追加要求は、トラブルの原因となることが多いため、RFPの段階で全ての期待や要件を記載するように努めましょう。
複数名で抜け漏れをチェックする
RFPの内容に抜け漏れがないか、関係部署や複数名で確認することで、網羅性と正確性を高めることができます。
各部門と連携して作成する
RFPの内容は、システムを利用する各部門の意見や要望を反映させる必要があります。部門間の連携が重要です。
予算の記載について
RFPに予算規模を記載すべきか否かは議論が分かれる点です。
予算を記載しないことへの懸念
「予算規模を指定すると、提案が小さくまとまってしまい、思い切ったアイデアなどが出ないのでは?」という不安や、「本来は安く済むのに不要な作業を水増しで追加されて無駄遣いになるのでは?」という懸念があります。
予算を記載することの推奨
コンペ形式で複数の企業から提案を受ける場合は、必ず予算を入れることをお勧めします。予算がわかっていれば、ベンダーは最初から予算に収まるように提案できます。予算が不明なRFPに対しては、「本気で提案したのに価格が理由で落とされる」という経験から、提案自体を控える、あるいは義理として適当に提案するという企業も少なくありません。できるだけ多くの企業にしっかりとした提案をもらうためにも、予算は明記しておくことが望ましいでしょう。
RFPの作成者について
RFPは、プロジェクトを主導する立場にある人が完全に理解することが不可欠です。なぜなら、プロジェクトが開始したら、社内外の関係者とプロジェクトの調整をするのは現場メンバーだからです。RFPの作成が難しい場合、社内の詳しい人に協力を頼んだり、RFPの制作協力を外部に依頼しても構いません。ただし、外部に丸投げすることは、RFPを作ることがゴールとなり、適切な社内調整が行われない傾向があるため避けるべきです。RFP策定支援の協力を外部コンサルなどに借りる場合は、あくまで技術的な知見やデジタルに関する知見を借りるなど範囲を限定し、コンペを依頼する会社と直接的な利害関係がない会社が望ましいです。
RFP作成の基本的な流れ(ステップ)
RFP作成には、一般的に以下のステップを踏むことが推奨されます。
STEP1:プロジェクトチームの編成
RFP作成およびプロジェクト推進のためのチームを編成します。
STEP2:現状課題の把握と目的の明確化
RFP策定開始前に、全社システムにおけるプロジェクトの位置づけを確認し、自社の現状の課題を深く掘り下げ、このプロジェクトで何を達成したいのか、その目的を具体的に明確にします。
STEP3:解決策の設計
明確になった目的達成のための、具体的な解決策の方向性を設計します。
STEP4:RFPの作成・提出
上記で明確になった内容をRFPとして文書化し、ベンダーに提出します。
STEP5:各社から提案書・見積書を受領
RFPに基づき、各ベンダーから提案書と見積書を受け取ります。
STEP6:各社との調整~契約社決定
受領した提案内容を評価し、質疑応答や交渉を経て、最終的に契約するベンダーを決定します。
RFPと間違いやすい「RFI」と「RFQ」
RFPと混同されやすい言葉に「RFI」と「RFQ」があります。これらは目的と記載内容が異なります。
RFI(Request for Information)
「情報提供依頼書」の略です。
特定の課題や目的が明確でない段階で、広く情報収集を行う目的で利用されます。発注側がベンダーから幅広い情報を収集するために発行し、自社の課題解決に役立つ製品やサービスの情報を集めることを目的とします。
RFIに記載する項目としては、自社の基本情報、目的・背景、企業の基本情報、製品・サービスの基本情報、製品・サービスの機能などが挙げられます。
RFQ(Request For Quotation)
「見積もり依頼書」の略です。
既に仕様や要件が確定しているシステムや製品について、具体的な見積もりを依頼する際に使用されます。主に費用を比較検討する目的で利用されます。
RFP、RFI、RFQは、プロジェクトのフェーズに応じて使い分けることが重要です。一般的にはRFIで情報収集を行った後、RFPで具体的な提案を依頼し、最後にRFQで見積もりを取得するという流れで活用されます。
まとめ
RFP(提案依頼書)は、Webサイトやアプリ、システムの導入や開発プロジェクトにおいて、発注側と制作会社・ベンダーとの間に共通認識を生み出し、プロジェクトを円滑に進めるための不可欠なツールです。その作成には、自社の現状課題と目的を明確にし、求める要件を具体的に記載することが重要です。
RFPを適切に作成し活用することで、最適なパートナー選定、効率的なプロジェクト進行、そしてトラブルの未然防止につながり、最終的に理想的なシステム導入や顧客体験の改善を実現することができるでしょう。