カスタマージャーニーマップとは?
顧客が商品・サービスのファンになるまでのプロセスを可視化する
カスタマージャーニーマップとは、見込み顧客が商品やサービスを認知し、興味を持ち、比較検討を経て購入・契約に至り、さらには継続利用してファンになっていくまでの一連のプロセスを時系列で整理したものです。
このプロセスにおける顧客の「行動」「思考」「感情」の変化を一枚の図として可視化することで、顧客がどのような体験をしているのかを全体像として把握できるようにします。
なぜ今、カスタマージャーニーマップが必要なのか?
かつては、テレビCMを見て店頭で買う、といったシンプルな購買行動が主流でした。しかし現在は、SNS、Webサイト検索、口コミサイト、店舗アプリなど、顧客と企業のタッチポイントは多岐にわたります。
特にBtoBにおいては、情報収集から問い合わせ、商談、社内稟議とプロセスが長く、関わる人物も多いため、どのタイミングで誰に何を伝えるべきかが複雑です。こうした複雑な顧客の動きを俯瞰し、顧客体験(CX)全体を最適化するために、カスタマージャーニーマップの作成が不可欠となっているのです。

カスタマージャーニーマップを作成する3つのメリット
カスタマージャーニーマップを作成し、チームで共有することには、大きく3つのメリットがあります。
メリット1:顧客体験全体を俯瞰し、「顧客視点」で施策を立案できる
マーケティング担当者や開発者は、どうしても「自社の商品をどう売るか」「この機能をどう使わせるか」という企業目線(プロダクトアウト)になりがちです。しかし、マップを作成することで、顧客の行動を時系列で追い、強制的に「顧客視点」へ切り替えることができます。
例えば、ターゲットが「20代前半のおしゃれ好きな女性」であるアパレルECサイトの場合、彼女の行動を詳しく追っていくと、Webサイトにアクセスするずっと前の段階で、雑誌やネットで気になる商品を見つけ、さらに「実店舗に行って試着をしてから、最終的にECサイトで購入している」ことがわかったとします。
この行動の背景には、「服を着たときのシルエットを何より重視していて、買い物で絶対に失敗したくない」という強い価値観(インサイト)があります。この心理さえ理解できれば、Webサイトで提供すべき施策は自然と具体的になります。
店舗誘導の強化:「今すぐ試着したい」に応えるため、在庫がある近隣店舗をすぐに検索でき、どこに行けば試着できるか一目でわかる機能を実装する。
Webサイトでの不安解消:わざわざ店に行かなくても安心できるよう、過去にそのWebサイトで購入したお気に入りの商品と、検討中の商品のサイズを詳細に比較できる機能を導入する。
このように、単に数字だけを見ていては気づけない、顧客の生活や感情に寄り添った「本当に求められている体験」を導き出せるのが最大のメリットです。
メリット2:社内・チーム間の認識を統一する共通言語になる
マーケティング、営業、カスタマーサポート、開発など、部署によって顧客の見え方は異なります。
マーケティング:「Webサイトへの集客数は増えているから順調だ」
営業:「確度の低いリードばかりで成約しない」
開発:「機能は充実しているのになぜ使われないのか」
このように認識がズレたままでは、効果的な施策は打てません。カスタマージャーニーマップを作成することは、チーム全員が同じ地図を持つことを意味します。「今は比較検討フェーズの顧客への情報提供が不足しているね」といった共通言語で議論ができるようになるため、認識のズレが解消されます。特にBtoBのように営業とマーケティングの連携が重要なビジネスでは、この認識統一がプロジェクトの成否を分けます。
メリット3:施策の抜け漏れを防ぎ、優先順位を明確にできる
顧客の動きを時系列で並べることで、接点の抜け漏れや、ボトルネックになっている箇所が明確になります。
例えば、「認知獲得の広告には多額の予算を使っているが、比較検討段階で顧客が求めている導入事例や詳細スペックなどが全く用意されていない」といった施策の偏りにも気づけるでしょう。全体を俯瞰した上で、どこが最も改善インパクトが大きいかを判断できるため、限られた予算やリソースを最適な施策に配分することが可能になります。
カスタマージャーニーマップの作り方5ステップ
ここからは、実際にカスタマージャーニーマップを作成する手順を5つのステップで解説します。
STEP1:目的とペルソナの具体的設定
まずは、マップを作成する「目的」と、主人公となる「ペルソナ」を明確にします。
目的の設定「ECサイトの新規会員登録を増やしたい」「BtoB商材の問い合わせ後の成約率を上げたい」など、解決したいビジネス上の課題を定義します。
ペルソナ設定「20代女性」といった大まかなターゲットではなく、実在する人物のように詳細に設定します。
基本属性:年齢、職業、家族構成、居住地
心理・行動:価値観、趣味、情報収集の方法、抱えている悩み
このとき、想像だけで作らず、必ず「事実」に基づき設定することが重要です。具体的には、以下のようなデータが根拠になります。
自社サイトのアクセス解析や行動ログ
既存顧客へのアンケートやデプスインタビュー
営業担当者が聞いた顧客の生の声
カスタマーサポートへの問い合わせ履歴
これらを分析し、精度の高い「実際にいそうな顧客像」を設定します。
参考記事:BtoBマーケの成果に直結するペルソナ設定。作成手順とBtoCとの違いを解説
STEP2:購買プロセスの定義
次に、ペルソナが目的の行動に至るまでの時間の流れ(横軸)を定義します。
例えば、「夏休みだから旅行に行きたい!」といったニーズの想起から始まり、実際に予約して利用し、最終的に繰り返し使うようになるファン化までのストーリーを、意味のある段階ごとに区切っていきます。一般的な枠組みは以下のとおりです。
BtoC:ECサイトなどの例 [興味・関心] → [情報収集] → [比較・検討] → [購入] → [利用・共有]
BtoB:高額商材の例 [課題認識] → [情報収集] → [比較検討] → [社内稟議・決裁] → [導入・契約] → [活用・定着]
特にBtoBでは、個人の感情だけでなく「組織としての意思決定」というプロセスが含まれるのが特徴です。自社のビジネスモデルに合わせて最適なステップを設定してください。

STEP3:顧客の行動・タッチポイントの洗い出し
各段階において、ペルソナがどのような行動をとるか、どのような接点があるかを洗い出します。
先ほどのアパレルECサイトの例で、「商品を探す」段階を考えてみましょう。ここには、大きく分けて2種類の行動があります。
受動的な行動:テレビや電車広告、ネット広告などで商品と偶然出会う
能動的な行動:SNSでの情報収集、ファッション誌を読む、友人と会話する、店頭に探しに行く
このように、顧客と商品との接点と行動を具体的に整理していきます。
ここで重要なのは、Webサイト上の行動だけでなく、「オフラインの行動」や「自社以外の接点」も想像することです。「上司に相談する」「競合サイトを見る」といった行動も書き出すことで、よりリアルな顧客の動きが見えてきます。
参考記事:カスタマージャーニーとタッチポイント設計で成果を最大化する実践法
STEP4:顧客の思考・感情・課題の整理
洗い出した行動の裏にある、ペルソナの「気持ち」を深掘りします。
STEP3の例で挙げた「積極的に情報を探す」という行動の背景には、どのような心理があるのでしょうか。例えば、「世の中の最先端を行く新しいおしゃれアイテムに出会いたい」という欲求や、「新しいおしゃれ情報に毎日触れてワクワクしたい」といったインサイトが存在するはずです。
このように、表面的な行動の裏にある動機を整理します。このインサイトをしっかりと引き出すためには、想像だけで書くのではなく、デプスインタビューを行って事実に基づいて整理することを強くおすすめします。
参考記事:定量調査・定性調査を武器に。データで導くWebサイト改善。
さらに、これらの感情の動きを高い・低いといった線でつないで可視化してみましょう。そうすると、顧客のモチベーションがどこで下がるのかが一目でわかるようになります。例えば、カートに入れた瞬間に「送料が高いな…」と線が下がっているなら、そこに大きな改善のチャンスがあります。
STEP5:マップ化と具体的な施策・評価指標の検討
最後に、整理した行動・思考・感情をマップに落とし込み、見えてきたインサイトに対する解決策を考えます。
例えば、「世の中の最先端を行く新しいおしゃれアイテムに出会いたい」や「新しいおしゃれ情報に毎日触れてワクワクしたい」といったインサイトに対しては、Webサイトのデザインやページ遷移時の動きをリッチにすることで、「おしゃれ感度が刺激されるブランドの第一印象」を作る必要があります。
また、「真新しいものを取り入れてみたい」というインサイトに対しては、「今使っているアイテムと比べて何が良いのか」が直感的に理解できる体験づくりが必要です。
このように、生活者調査をベースに生活者の視点で情報を整理し、本当に必要な体験を定義できる点こそが、カスタマージャーニーマップの最大のメリットです。
施策が決まったら、最後にそれがうまくいったかを測る評価指標も設定しましょう。例えば、Webサイトの滞在時間や比較ページの閲覧数、コンバージョン率などが挙げられます。ここまで落とし込んで初めて、カスタマージャーニーマップは現場で使える実践的なツールになります。
参考記事:カスタマージャーニーマップをプロダクトの要件に落とすユーザーストーリーマッピングとは
失敗しないための作成ポイント・注意点
1. 企業の「願望」や「思い込み」で作らない
最も多い失敗は、「ユーザーはこう動いてくれるはずだ」という企業の都合でシナリオを作ってしまうことです。STEP1で触れたとおり、必ず調査データやインタビュー結果などの客観的な根拠に基づいて作成してください。「まさかここで離脱するとは」という不都合な真実こそが、改善のヒントになります。
2. 最初から完璧を目指さず、運用しながら改善する
顧客の行動や市場のトレンドは常に変化します。一度作って終わりではなく、施策を実行し、その結果をもとに定期的にマップを見直すことが重要です。最初は仮説ベースでも構いません。まずは作ってみて、実際のデータと照らし合わせながらブラッシュアップしていく「運用」の意識を持ちましょう。
カスタマージャーニーマップの活用事例イメージ
具体的なイメージを持っていただくために、業態の異なる2つの活用事例(BtoC・BtoB)を整理しました。
項目 | 事例1: | 事例2: |
|---|---|---|
ペルソナ | 20代女性 | 30代男性(企業のDX推進担当者) |
発見した課題 | ・商品詳細ページまでは見ているが、購入ボタンの手前で離脱が多い。 ・感情分析の結果、「写真は素敵だが、自分の体型に合うか不安」がボトルネックになっていることが判明。 | ・Webサイトを見て機能には満足しているが、検討段階で停滞している。 ・分析の結果、社内に導入効果を説明するための資料不足がボトルネックになっていることが判明。 |
打った施策 | ・自分に近い身長/体型のスタッフコーディネート機能を追加 | ・「上司説得用プレゼン資料(テンプレート)」をダウンロード可能に |
結果 | 不安が解消され、カートからの離脱率が改善。 | 担当者が社内稟議を通しやすくなり、リードからの商談化率・成約率が向上。 |

まとめ
カスタマージャーニーマップは、顧客の行動や感情を深く理解し、マーケティング活動の質を高めるための強力な武器です。
顧客視点への転換:企業都合の押し付けを防ぐ
チームの連携強化:共通言語でブレない施策実行
施策の精度向上:的確なタイミングでのアプローチ
Webサイトの改善やDX推進において「何から手をつけるべきか」と迷ったときは、ぜひ一度立ち止まり、カスタマージャーニーマップを描いてみてください。そこには必ず、ビジネスを成長させるヒントが隠されているはずです。
もし「一から作るのは大変そう…」と感じる方は、博報堂アイ・スタジオが提供している無料の「カスタマージャーニーマップ・テンプレート」をご活用ください。項目を埋めていくだけで、基本的なマップが作成できるように設計されています。
ぜひ、あなたのビジネスにおける「理想の顧客体験」を設計してみてください。
カスタマージャーニーマップ作成に関するよくある質問
Q1. 顧客へのインタビューや詳細なデータがないと作成できませんか?
A. いいえ、まずは営業日報やアクセス解析など、手元にある情報から始めて構いません。最初から完璧なデータを求めると手が止まってしまいます。まずは社内の情報で仮説ベースのマップを作り、運用しながら実際の顧客へのヒアリングなどで徐々に精度を高めていく進め方がおすすめです。
Q2. 完成したマップは、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 決まりはありませんが、半年に1回程度や、新商品リリースのタイミングでの見直しを推奨します。市場や顧客の心理は常に変化するため、一度作って終わりにせず、施策の結果と照らし合わせて「現状に合っているか」を定期的にチェックし、アップデートし続けることが重要です。
Q3. マーケティング担当者一人で作っても良いのでしょうか?
A. たたき台は一人で作っても構いませんが、完成までには営業やカスタマーサービスなど他部署のメンバーを巻き込むことを強くおすすめします。現場の声には、データだけでは見えないリアルなヒントが隠されているからです。多角的な視点を取り入れることで、社内の思い込みではない精度の高いマップになります。
Q4. ペルソナは1人に絞るべきですか?複数設定しても良いですか?
A. ターゲット層が幅広い場合は複数設定しても構いません。ただし、最初から複数を同時に作ろうとするとプロジェクトが複雑化してしまいます。まずはビジネスへのインパクトが最も大きいメインのペルソナを1人設定し、その1枚を作り切ることから始めてみてください。








