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マーケティングDXとは?成功に導くデータをフル活用するコツ

田中 剛(マーケティングコンサルタント)
2025-09-24
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市場の不確実性が高まり、ビジネス環境はめまぐるしく変化しています。このような時代に企業が成長を続けるには、データとデジタル技術を駆使して顧客を深く理解し、変化を先取りすることが不可欠です。そこで今、多くの企業が注目するのが「マーケティングDX」です。本記事では、マーケティングDXの基本から、具体的な実践方法までを分かりやすく解説します。

マーケティングDXとは

マーケティングDXとは、データとデジタル技術を活用してマーケティング活動において業務変革をおこない機敏性や競争優位性の確保をめざすことです。近年、米中のデジタル・ディスラプターによる市場破壊や、緊急事態宣言などの要因で顧客行動が急激に変化する中、多くの企業でマーケティングの競争優位性や機敏性が求められています。

DXは以下のように定義されています。端的に言うと、DXとはデータとデジタル技術を活用しさまざまな外部環境の変化に合わせ企業変革をおこない競争優位性を確立することです。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

引用元:DX戦略の策定と推進


企業変革とは、ビジネスモデルや組織、企業文化も変革するため、実質別の会社に生まれ変わるような変化を指します。DXのトランスフォーメーションとは幼虫が成虫に変わるほどの大きな変化を意味します。

マーケティングDXは、変化の激しい顧客行動と密接にかかわるマーケティング領域業務を切り取ってスピーディーに業務変革を実施することです。もしくは、企業変革を伴うDXのプロセスの一環として、マーケティングの業務変革を実施することです。その結果、計画的にDXを推進できます。

デジタルマーケティングとの​違い​

​「マーケティングDX」と​「デジタルマーケティング」、​両者は​混同されがちですが、​その​目的とスコープ​に​決定的な​違いが​あります。​

一言で​言えば、​デジタルマーケティングが​「デジタル技術を​使った​“戦術”」であるのに​対し、​マーケティングDXは​「デジタルを​起点とした​“ビジネス全体の​変革戦略”」です

デジタルマーケティング

マーケティングDX

目的

Web広告やSNS運用など、個別の施策による販売促進や認知度向上

ビジネスモデルや組織そのものを変革し、新たな顧客体験価値を創造する

範囲

マーケティング部門が中心となる個別のチャネル活動

経営層を巻き込み、部門を横断する全社的な取り組み

位置づけ

戦術・施策

戦略・変革

例えば、​これまで​店舗型ビジネスを​やっていて、​そこに​ECサイトを​加えると、​顧客は​商圏の​制限と​営業時間の​制約もなくなり​自由に​注文できるようになります。​

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ここに​更に​ECサイトでの​ご注文の​品を​店舗で​送料無料で​お渡しを​可能に​したり、​店舗に​在庫が​ない​場合には​ECでの​購入を​お勧めしたり、​オンラインと​オフラインを​マージする​OMOを​採用し始めると、​デジタルを​活用した​マーケティング業務変革への​取り組み、​つまり​マーケティングDXと​なります。

マーケティングDXが​求められる​背景

な​ぜ今、​多くの​企業に​とって​マーケティングDXが​重要な​経営課題と​なっているのでしょうか。​その​背景には、​無視できない​2つの​大きな​環境変化が​あります。​

消費者行動の​多様化

スマートフォンと​インターネットの​普及に​より、​消費者が​情報を​収集し、​商品を​比較検討し、​購入に​至るまでの​プロセスは​根本的に​変わりました。​顧客の​行動は、​かつてのような​単純な​一本道ではなく、​Webサイト、​SNS、​実店舗、​アプリなど、​無数の​接点を​自由に​行き来する​複雑な​ものになっています。​

こうした​状況で、​すべての​顧客に​同じ​画一的な​メッセージを​送る​従来型の​マスマーケティングは​効果を​失いつつあります。​顧客一人​ひとりの​異なる​興味や​状況を​的確に​捉え、​それぞれの​接点で​最適な​コミュニケーションを​実現する​ためには、​データに​基づき顧客を​深く​理解する​DXの​アプローチが​不可欠です。​

テクノロジーの​進化

消費者行動の​変化と​同時に、​企業が​利用できる​テクノロジーも​飛躍的に​進化しました。​AIに​よる​高度な​データ分析、​あらゆる​モノが​インターネットに​つながる​IoT、​そして​膨大な​データを​柔軟に​処理する​クラウド技術などは、もは​や​特別な​ものでは​ありません。​

これらの​技術革新に​より、​これまで​取得・活用が​難しかった​顧客の​行動データを​リアルタイムで​収集し、​深く​分析する​ことが​可能に​なりました。​テクノロジーは、​顧客一人​ひとりを​解像度​高く​理解する​ための​強力な​武器と​なります。​しかし、​これらの​技術を​ただ導入するだけでは、​新たな​問題を​引き起こすことにもなります。​

マーケティングDXのメリット

多くの企業がマーケティングDXに取り組む理由はなんでしょうか。ツールの導入だけでなく変革をともなうことによりどのようなメリットがあるのか整理します。

データに​基づいた​迅速な意思決定

全社的な​企業変革である​DX​(デジタルトランスフォーメーション)に​比べ、​マーケティングDXは​マーケティング領域に​特化した​業務変革である​ため、​マーケティング部門が​中心と​なり比較的クイックに​実行しやすい​メリットが​あります。​

参考記事:マーケティングにおける「データドリブン」の必要性

優れた​顧客体験​(CX)の​提供

マーケティングDXに​よって、​これまで​マーケティングでは​困難だった、​顧客一人​ひとりの​個別対応を​おこな​えるようになり、​顧客体験を​向上させる​ことができます。​たとえば、​顧客が​閲覧した​Webページ、​来店頻度、​営業との​会話や​メールの​やり​取り、​購入履歴などの​データを​統合して​管理する​ことで、​最適な​接客や​提案を​おこな​うことができます。​

参考記事:やらないと損する!デジタルマーケティング×顧客理解

新たな​ビジネスモデルの​創出

マーケティングDXによって、非常に多くのデータを取得することができ、メンバー全体が定量的なデータに基づいた判断を行うことができ、実施した施策に対して定量的に評価することができます。

業務効率化と​生産性向上

マーケティングDXに​よって、​合理化がはかられ、​単純作業などの​自動化を​進める​ことができます。​メンバーは​より​生産性の​高い​戦略に​専念する​ことができます。​​

マーケティングDXの進め方

マーケティングDXは、​思いつきで​ツールを​導入するだけでは​成功しません。​「何を​目指すのか」と​いう​目的から​逆算し、​計画的に​ステップを​踏んでいく​ことが​不可欠です。​ここでは、​DXを​成功に​導く​ための​代表的な​3つの​ステップを​解説します。​

参考記事:「顧客体験発想」で考える、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進アプローチ

Step1:目的の​明確化と​ビジョンの​共有

最初の​ステップは、​マーケティングDXに​よって​「どのような​経営課題を​解決したいのか」​「顧客に​どのような​価値を​提供したいのか」と​いう​目的を​明確に​する​ことです。​例えば、​「LTV​(顧客生涯価値)を​20%向上させる」​「解約率を​5%改善する」と​いった、​具体的で​測定可能な​目標を​設定します。​

重要なのは、​この​目的と​ビジョンを​マーケティング部門だけでなく、​営業、​IT、​経営層など、​関連する​全部​門で​共有する​ことです。​DXは​組織横断の​取り組みである​ため、​初期段階で​関係者の​目線を​合わせておく​ことが、​後の​部門間の​対立や​協力体制の​欠如と​いった​失敗を​防ぐ鍵と​なります。​

Step2:データ基盤の​構築

目的が​定まったら、​次は​その​目的達成の​根拠と​なる​データを​集め、​活用する​ための​「データ基盤」を​構築します。​多くの​企業では、​顧客データが​各部門の​システムに​点在する​「データの​サイロ化」が​起きており、​これが​DXの​大きな​障壁と​なります。

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​データ基盤は、​これらの​サイロを​解体し、​顧客を​多角的に​理解する​ための​土台です。​

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データ基盤の​構築は、​主に​以下の​流れで​進めます。​

データの​収集と​整理 社内に​散らばる​オンライン・オフラインの​データを​一元管理できるようにします。​

  • 店舗の​POSデータ:会員アプリや​ポイントカードと​連携させ、​「誰が」​「何を」買ったか​分かるように​する。​

  • 営業担当者の​顧客情報:個人の​PCや​Excelではなく、​SFAや​CRMと​いった​共通の​システムに​入力し、​資産と​して​標準化する。

  • 広告の​成果データ:従来データ化が​難しかった​テレビCMなども、​効果測定ツールを​用いて​可能な​限りデータ化する。​

データの​蓄積と​統合 収集した​様々な​形式の​データを、​目的別に​処理しやすい形で​蓄積・​統合します。​

専門的には​データレイク​(生データのまま​保管)、​データウェアハウス​(整理して​保管)、​データマート​(目的に​応じて​抽出)と​いった​段階を​踏みますが、​要点は​「全社の​データを​一か​所に​集め、​いつでも​使える​状態に​整理しておく」​ことです。​これに​より、​部門を​横断した​データ分​析が​可能に​なります。

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Step3:施策の​実行と​効果検証

データ基盤と​いう​土台が​整ったら、​いよいよ具体的な​マーケティング施策を​実行に​移します。​MA​(マーケティングオートメーション)​や​BIツールなどを​データ基盤に​接続し、​分析結果に​基づいた​アプローチを​行います。​

例えば、​以下のような​施策が​考えられます。​

  • 購買データから​顧客を​セグメント分けし、​パーソナライズされた​メールを​配信する。

  • Webサイトの​行動履歴から​関心事を​予測し、​最適な​タイミングで​次の​アクションを​促す。​

  • 優良顧客の​行動パターンを​分析し、​解約しそうな​顧客への​フォローアップを​自動化する。​

施策を​実行したら、​必ず​その​結果を​データに​基づいて​検証します。​そして、​その​検証結果から​得られた​学びを​次の​施策に​活かすと​いう​PDCAサイクルを​回し続ける​ことが、​マーケティングDXの​成果を​最大化させる​上で​最も​重要です。​

参考記事:顧客データを活用した「データマーケティング」の推進

マーケティングDX推進に​おける​課題

マーケティングDXを​進めると​多くの​課題に​直面するでしょう。​業務改善で​あれば​日々の​業務の​課題を​解決しPDCAを​繰り返しグロースさせる​ため発生しに​くかった​問題が、​業務変革を​伴う​マーケティングDXでは​業務を​刷新する​ことを​指すためさまざまな​課題に​遭遇します。

DX人材の​不足

DX人材不足も​深刻な​課題です。​デジタル技術と​マーケティングの​両方の​スキルを​備えた​DX人材はますます需要が​高まり、​採用が​難しくなります。​その​ため、​採用の​強化だけでなく​DX人材育成の​ための​OJTやリスキリングも​並行して​推進する​ことも​大切です。

組織・部​門間の​連携

マーケティングDXでは​全社的な​情報資産を​フル活用します。​その​ためには​統括する​マーケティング組織に​戦略投資予算が​必要であり、​全社的な​戦略を​司る​組織体である​必要が​あります。
こうした連携を阻む要因のひとつに、システムのブラックボックス化や属人化があります。
詳しくは、DX推進の足かせとなるシステムのブラックボックス化・属人化を回避するにはをあわせてご覧ください。

マーケティングDXを​成功させる​ポイント

マーケティングDXは、​その​道のりに​多くの​課題が​伴う​変革です。​ここでは、​DXプロジェクトを​成功に​導き、​着実に​成果を​上げる​ために​特に​重要と​なる​3つの​ポイントを​解説します。​

経営層を​巻き込んだ​全社的な​推進体制

マーケティングDXは、​単なる​マーケティング部門の​改善活動ではなく、​企業全体の​ビジネスモデルや​組織の​あり方に​影響を​及ぼす経営戦略​その​ものです。​その​ため、​経営層の​強い​コミットメントが​成功の​絶対条件と​なります。​

部​門間の​利害調整や、​ECと​実店舗の​評価基準の​見直し、​そして​新たな​スキル習得への​投資など、​DXの​推進には​部門単独では​解決できない​課題が​必ず​発生します。​経営層が​DXの​旗振り役と​なり、​変革の​目的と​ビジョンを​全社に​繰り返し発信する​ことで、​組織の​一体​感を​醸成し、​変革への​抵抗を​乗り越える​ことができます。​

顧客視点での​体験価値の​設計

マーケティングDXの​目的は、​ツールの​導入や​データの​整備自体では​ありません。​その先に​ある​「顧客体験価値​(CX)の​向上」こそが​最終的な​ゴールです。​この​視点が​ぶれると、​高価な​システムを​導入した​ものの、​成果に​結びつかないと​いう​失敗に​陥りがちです。​

まずは​カスタマージャーニーマップなどを​用いて​顧客の​行動や​感情を​可視化し、​オンライン・オフライン全ての​接点に​おける​課題や​ニーズを​洗い出します。​「顧客に​とっての​理想の​体験は​何か」を​起点に​考え、​その​理想を​実現する​ために、​どのような​データや​技術が​必要かを​逆算して​設計していく​ことが​成功への​近道です。​

外部​パートナーとの​連携

DX推進には、​データサイエンスや​システム構築、​組織変革など、​多岐に​わたる​高度な​専門知識が​求められます。​これらの​知見や​スキルを​全て​自社だけで​まかなうのは、​時間的にも​コスト的にも​現実的では​ありません。​

不足している​専門領域に​ついては、​積極的に​外部の​専門家や​パートナー企業の​知見を​活用する​ことを​推奨します。​実績豊富な​パートナーは、​最新の​技術動向や​他社事例にもとづく​客観的な​視点を​提供してくれます。​自社の​強みである​事業や​顧客への​深い​理解と、​パートナーの​専門性を​掛け合わせる​ことで、​DXの​推進スピードと​成功確率は​飛躍的に​高まります。​

マーケティングDXまとめ

DXが企業変革であることに対し、マーケティングDXは業務に部分最適した業務変革です。そのためスピーディーに部門単位で実施できます。 一方で、全社的にDX推進を進行している場合は、DX推進タスクフォースが描くビジョンやロードマップとの整合性をとる必要性を述べました。DXは企業変革であるのに対し、マーケティングDXは業務変革です。そのため、企業変革の結果ビジネスモデルが大きく変わってしまうことがあります。そうなるとマーケティングの戦略も大幅に変わるために、部分最適によりすぎるあまり、全体との整合性を失わないように気を付けましょう。

執筆者
田中 剛(マーケティングコンサルタント)
マーケティングコンサルタントとして、専門分野はデジタルマーケティング領域(HubSpot、Webマーケ、SEO、データ分析)を中心に担当。中小企業向けのマーケティングDXコンサルティングほか、大手電力会社・郵便会社などのデータ分析業務を中心に業務に携わりつつ、宣伝会議などでセミナー講師なども行う。