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新卒採用を成功に導く「リクルート・ブランディング」 人事・広報・経営が連携すべき理由

鈴木 緑(プロデューサー)
2025-10-02
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「優秀な人材ほど、競合他社に流れてしまう」 「多額の費用を投じても、期待した学生からの応募が集まらない」 「最終面接まで手応えがあったのに、内定を辞退されてしまった」

企業の成長を左右する新卒採用の現場で、このような課題に頭を悩ませている人事担当者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。現代の採用市場は企業と学生が対等に選び合う時代へと変化しています。

数多ある企業の中から自社を選んでもらい、未来の仲間となってもらうためには、何が必要なのでしょうか。

これまで実施してきた施策が、求人媒体への出稿や説明会の開催といった「手法」の改善に留まっていたのだとしたら、そのアプローチ自体を見直すときかもしれません。問題の根幹は、「企業の魅力の伝わり方」そのものにある可能性が高いからです。

その根本的な解決の鍵を握るのは「リクルート・ブランディング」だと考えています。これは、採用活動を単なる「人集めの作業」として捉えるのではなく、「自社のファンを創り、未来の仲間を惹きつけるためのブランディング活動そのもの」と捉え直す考え方です。

本コラムでは、なぜ今リクルート・ブランディングが不可欠なのか、その理由を、20年に渡り採用サイト制作に携わった知見とデータをもとに、具体的なステップを解説させていただきます。

なぜ今、採用に「ブランディング」が不可欠なのか?

「リクルート・ブランディング」の重要性について、3つの視点から考えてみます。

採用は、もはや「経営課題」の中心

まず認識すべきは、採用活動がもはや人事部門だけの一業務ではなく、企業の未来を左右する「経営課題そのもの」であるという事実です。

ある調査によれば、企業が抱える経営課題として「人材の強化(採用・育成・多様化への対応)」は、現在(48.9%)、3年後(46.4%)、5年後(15.3%)のすべての期間において、常に上位に挙げられています。特に「現在」の課題としては、「収益性向上」(44.9%)や「売り上げ・シェア拡大」(32.0%)を抑えて、最も重要な課題として認識されているのです。

これは、変化の激しい時代を勝ち抜くためには、優れた人材の獲得と育成が不可欠であると、多くの経営者が考えていることの証拠です。つまり、採用活動は、企業の存続と成長そのものを担う、極めて重要なミッションと言えます。

Z世代に選ばれる企業の「新しいものさし」

次に、採用活動の主役である「学生」の価値観の変化に目を向ける必要があります。 終身雇用が当たり前ではなくなった今、若手人材、特に「Z世代」と呼ばれるデジタルネイティブ世代は、企業を選ぶための「ものさし」を大きく変えています。

彼らが重視するのは、企業の規模や安定性、給与といった条件面だけではありません。その企業が掲げるビジョンや社会に対する姿勢、そして、そこで働くことを通じて得られる自己成長の機会といった、いわば「意味的価値」です。

別の調査では、「就職したい」という意向につながる企業イメージとして、「安定性がある」(44.2%)、「信頼性がある」(37.2%)といった項目が上位を占める一方、「未来に期待できる」(28.2%)、「これからの時代に必要とされる」(28.1%)、「成長力のある」(26.2%)といった、企業の将来性や成長性を示す項目も高く評価されています。

ただ「安定してそう」というだけでは、彼らの心は動きません。自分の未来を託すに足る「期待感」や、社会における存在意義への「共感」を提示できて初めて、彼らの選択肢に入ることができるのです。

市場が証明するブランディング投資の活況

こうした状況を背景に、多くの企業が「企業ブランディング」への投資を加速させています。特に、これまで生活者との接点が少なかったBtoB企業においても、ブランディング広告市場が盛り上がっています。

なぜBtoB企業も多額の投資を行うのでしょうか。その複合的な経営課題の中には、新規取引の拡大やグローバル化と並んで、明確に「優秀な人材不足の解消」という採用力の強化が挙げられています 。

つまり、業界の垣根を越えて多くの企業が、激化する人材獲得競争を勝ち抜くための戦略的投資として、「企業ブランディング」が極めて有効であることに気づき、既に行動を始めているのです。

なぜBtoB企業のブランディング市場が増加しているのか?

企業ブランディングの理由はさまざまですが、複合的な経営課題が相まって実施されることが多いです。

企業の経営課題は多岐にわたり、短期・中長期の視点でも変化します。
直近の調査では「人材の強化」が短期から長期まで大きな課題となっています。

※出典:一般社団法人日本能率協会『日本企業の経営課題2023』調査

「採用力」を劇的に向上させる、ブランディングの具体的な効果

リクルート・ブランディングの必要性をご理解いただいたところで、次に気になるのは「具体的にどのような効果が期待できるのか」という点でしょうか。ここからは、企業ブランディングが採用活動にもたらす具体的なメリットを、データと事例を交えて解説します。

あらゆる「意向」の土台となるブランディング

まずお伝えしたいのは、優れた企業ブランディングの効果は、採用活動だけに限定されないということです。

企業ブランドへの投資は、学生の「就職意向」や転職希望者の「転職意向」を高めるだけでなく、社員の「勤続意向」、顧客の「取引意向」、さらには株主や投資家の「投資意向」といった、企業を取り巻くすべての関係者(ステークホルダー)との良好な関係構築に貢献します。

つまり、採用担当者の仕事は、単に人材を確保するだけでなく、コミュニケーションを通じて企業全体の価値を高め、あらゆるビジネスチャンスの土台を築くことにもつながっているのです。

「知っている」から「働きたい」へ——認知と意向の強い関係性

さまざまな意向の、すべての前提となるのが、そもそも「その企業を知っているか」、すなわち「認知」です。

企業のことを正しく知ってもらえれば、それだけ『この会社で働きたい』と思ってもらえる可能性が高まります。ただし、ここで注意したいのは、ただ漠然と社名だけが知られていても、就職意向には結びつきにくいという点です。かつて「名前は知ってるけど、何をしてるかは知らない」というユニークなCMがありましたが、まさにその状態では不十分です。「この会社が、何(事業ドメイン)を通じて、どのように社会と関わっているのか」をセットで認知されて初めて、認知は具体的な「意向」へと転換されるのです。

明日から実践!「リクルート・ブランディング」を始める4つのステップ

採用活動においてブランディングがいかに重要で、かつ効果的かをご理解いただけたかと思います。
「しかし、具体的に何から手をつければいいのか分からない」 そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。
リクルート・ブランディングは、決して特別な企業だけのものではありません。ここでは、すぐにでもでも始められる具体的な4つのステップをご紹介します。

Step1:自社の「提供価値」を定義する(Who are we?)

すべての始まりは「己を知ること」です。あなたの会社は、一体何者なのでしょうか? 「私たちは、何を通じて、社会にどのような価値を提供しているのか」 この問いに、明確に答えられるでしょうか。

これは、単に事業内容をリストアップする作業ではありません。その事業の根底に流れる哲学や、企業の社会における存在意義(パーパス)までをも言語化する、非常に重要なプロセスです。

例えば、ある企業では「現在の事業内容を分かりやすい言葉で定義するのか(例:IT・DXの会社)」、それとも「今後の事業の拡張性までも見据え、より本質的な言葉で定義するのか(例:事業をエンジニアリングする会社)」といった、深いレベルでの議論が行われました。このプロセスこそが、リクルート・ブランディングの揺るぎない土台となります。

Step2:求める「人物像」を解像度高く描く(for Whom?)

次に、「誰に」その価値を届けたいのかを明確にします。 「優秀な学生」と漠然と捉えるのではなく、その人物像の解像度をできる限り高くすることが重要です。

求めるスキルや経験といったスペック面はもちろんのこと、「どのような価値観を持ち、何に対して情熱を燃やす人物なのか」「どんな働き方に喜びを感じるのか」といった、人間性にまで踏み込んだペルソナ(具体的な人物モデル)を描いてみましょう。

この人物像を具体化する上で非常に有効なのが、直近に入社した若手社員へのインタビューです。彼らが就職活動で何を軸にしていたのか、なぜ数ある企業の中から自社を選んだのか、その「生の声」にこそ、求める人物像のヒントが隠されています。

参考記事:BtoBマーケティングはペルソナ設定が重要!作成手順とテンプレートを紹介

Step3:心に響く「採用コンセプト」を策定する(What to say?)

Step1で見つけた「自社の提供価値」と、Step2で描いた「求める人物像のインサイト(深層心理)」を掛け合わせ、採用活動全体を貫くひとつの「コンセプト」を創り出します。

このコンセプトは、多くの場合、採用スローガンやキービジュアルといった、象徴的な言葉やデザインとして表現されます。アイスタも今年採用サイトをリニューアル。その際、「縦横無尽」をコンセプトにしました。新卒や若手であってもやりたいことをやれる「越境」と「創発」を体現するコンセプトです。

Step4:「一貫したメッセージ」で届ける(How to deliver?)

最後のステップは、作り上げたコンセプトを具体的なコミュニケーションに落とし込み、候補者に届ける段階です。ここで最も重要なのは「一貫性」です。
採用サイト、会社説明会、SNS、パンフレット、社員インタビュー、そして面接官が語る言葉まで。学生があなたの会社に触れるすべての接点(タッチポイント)で、同じ世界観、同じメッセージを、ブレなく伝え続ける必要があります。
特に、その戦略の中核を担うべきメディアが「採用サイト」です。採用サイトは、単なる応募を受け付けるための窓口ではありません。それは、企業の哲学やビジョンを発信する「オウンドメディア」であり、候補者との対話を始める最初の接点です。
ここで、企業の価値観や働く人々のリアルな姿をどれだけ魅力的に伝えられるか。それが、候補者とのミスマッチを防ぎ、心からの「この会社で働きたい」という意欲を醸成する上で、決定的な役割を果たすのです。

「人集め」から「仲間集め」へ。採用を、企業の未来を創る活動に。

ここまで、現代の採用活動における「リクルート・ブランディング」の重要性とその実践ステップについて解説してきました。
「優秀な人材が集まらない」という悩みの根源は、採用手法という枝葉の問題ではなく、「企業の魅力が正しく伝わっていない」という根幹の部分にあります。採用活動とは、企業の価値観や未来への意志を社会に問い、それに心から共鳴してくれる仲間を探すコミュニケーション活動に他なりません。
会社の価値は何か、これからどこへ向かおうとしているのか。それを一貫した言葉と熱意をもって伝え続けること。この地道で誠実な活動こそが、どんな採用テクニックにも勝る、最強の戦略となります。
リクルート・ブランディングは、採用を成功に導くだけでなく、社員のエンゲージメントを高め、企業文化を醸成し、ひいては会社全体の成長を加速させる、未来への投資です。
人事だけでも、広報だけでも採用活動はうまくいきません。あらゆる部署を巻き込み、経営陣をも巻き込んで、「会社の本当の提供価値とは何か?」という、最も本質的な議論から始めてみてはいかがでしょうか。

博報堂アイ・スタジオの採用ソリューションの特徴

求める人材像のペルソナを具体化し、ターゲットに伝わることを重要と捉え、3つのプロセスで優良人材を惹きつけます。人事担当者とお話すると、学生に「伝えたいこと」は明確にあるのですが、「伝える」に重きをおいていて、「伝わる」を考えていない方も多いです。

1.ターゲットの可視化

「旧帝大」「理系学生」など分かりやすい基準が設けられがちなターゲット設計に対して、一歩踏み込み、「どんな性格特性か」「どんなメディアに触れている人か」などを具体化します。

2.体験設計

ターゲットが企業に対してどのような印象を持っているか、どのような期待をしているかなどを明らかにし、態度変容を起こすための体験を設計します。

3.ニュートラルなアウトプット

策定したカスタマージャーニーマップを実現するために、どんな表現・方法でメッセージを届けるか、最適なアウトプットを提供します。

最近されたご相談・よくある質問

Q:募集を促す導線設計や問い合わせフォームの見直しもできますか?
A:採用カスタマージャーニーをもとに、ご要望や課題に優先度をつけ、必要な施策を一緒に考えさせていただきます。

Q:資金調達に合わせて採用を強化するための特設サイトの制作は可能ですか?
A:もちろん可能です。ターゲットが企業に対してどのような印象を持っているか、どのような期待をしているかなどを明らかにし態度変容を起こすための体験を設計、KPIの設定、コンテンツ企画も承ります。

Q:新卒・中途の採用候補者を対象にしたSNS・デジタルコンテンツを活用したマーケティング施策についてご相談できるパートナー企業を探しております。
A:「どんなメディアに触れている人か」などを具体化し、学生が良く見るSNSへの露出など、コンテンツの企画から制作・運用まで対応可能です。

Q:英語版の作成も可能でしょうか?
A:英語に限らず、多言語対応が可能です。

執筆者
鈴木 緑(プロデューサー)
Web黎明期の2004年に博報堂アイ・スタジオ入社。Flashバリバリなサイト制作を経て、UI/UXは大切だなとしみじみ感じる。
新入社員やインターン生はとても優秀で、娘もこんなふうに育ってほしいな、と思っている。