1. 「サードパーティクッキーのない世界」がもたらす変化
サードパーティクッキーは、複数のWebサイトを横断してユーザーの行動を追跡し、「この人は何に興味があるのか」を推測するための技術でした。しかし、個人のプライバシー意識の高まりを受け、その活用は大きな転換点を迎えています。
この変化は、すべてのブラウザで一様に起きているわけではありません。ブラウザごとに対応が異なり、すでに対応が進んでいるブラウザのユーザーに対しては、サードパーティクッキーに依存したマーケティングは機能しなくなっているのが現状です。
1.1. ブラウザごとの差異
主要なブラウザは、プライバシー保護に対する考え方の違いから、サードパーティクッキーに対して異なるアプローチを取っています。
・Safari (Apple):
プライバシー保護の分野で最も先進的であり、「ITP (Intelligent Tracking Prevention)」という強力な追跡防止機能を搭載しています。これにより、 サードパーティクッキーは大幅に制限されます。
・Firefox (Mozilla):
Safariに次いでプライバシー保護を重視しており、「ETP (Enhanced Tracking Protection)」によって、デフォルトでサードパーティクッキーをブロックしています。
・Google Chrome:
世界最大のシェアを誇るChromeも、2025年以降、段階的にサードパーティクッキーのサポートを廃止することを発表しています。
つまり、「サードパーティクッキーが使えなくなる未来」は、すでに来ているのです。
参考サイト:サードパーティ Cookie について

参考サイト:Desktop & Mobile Browser Market Share Japan Jan - Aug 2025
2. なぜ今? ユーザー理解を深めるゼロ&ファーストパーティデータ
サードパーティクッキーの代替として注目されているのが、「ゼロパーティデータ」と「ファーストパーティデータ」です。
・ファーストパーティデータ:
企業が自社のWebサイトやアプリ、店舗などでユーザーから直接収集したデータ(例:購買履歴、サイト内行動履歴、デモグラフィック情報)。
・ゼロパーティデータ:
ユーザーが意図的かつ積極的に企業に提供してくれるデータ(例:アンケートの回答、診断コンテンツの結果、好みに関する設定)。
参考記事:顧客データを活用した「データマーケティング」の推進
2.1 「事実」と「対話」で築く、ユーザーとの信頼関係
サードパーティクッキーが複数サイトの閲覧履歴から興味関心を「推測」するデータであるのに対し、ゼロ&ファーストパーティデータはユーザー自身の行動や意思に基づく「事実」のデータです。
この精度の高い「事実」は、一方的に「収集」するのではなく、ユーザーの同意を前提とした「対話」を通じて自然に提供してもらうことが重要です。このプロセス自体が、プライバシーに配慮した透明性の高いデータマーケティングを実現し、深いユーザー理解に基づいたコミュニケーションを可能にします。この積み重ねが、ユーザーエンゲージメントと信頼関係を同時に高めていくのです。

3. ユーザーが期待する価値と許可を得ること
ゼロパーティデータ、ファーストパーティデータを収集する上で重要な「価値交換」という考え方について、ここで少し、セス・ゴーディンが提唱した「パーミッション・マーケティング(ユーザーの許可を得るマーケティング)」の思想をヒントに掘り下げてみましょう。彼の思想が示すように、結局のところユーザーは、自分にメリットがなければ個人情報を提供してはくれないのです。
ユーザーにとっての価値:
・機能的価値: お役立ち情報、限定コンテンツ、クーポン
・情緒的価値: 楽しい体験(診断コンテンツなど)、特別扱いされている感覚
・自己実現価値: 自分の意見がサービス改善に繋がる
どのようなユーザーに、どのタイミングで、どんな価値を提供し、その見返りとして何のデータを得たいのか。この一連の流れを明確に描くことが大事です。
参考記事:The first four chapters of Permission Marketing

4. 【実践編】基本のデータ収集手法
「価値交換」の考え方をベースに、ユーザーとのあらゆるタッチポイントでデータを集める具体的な手法を見ていきましょう。特に、ユーザーが自らの意思で提供してくれるゼロパーティデータの収集において、これから紹介する手法は非常に有効です。
参考記事:カスタマージャーニーとタッチポイント設計で成果を最大化する実践法
4.1.取得する情報は最小限に、自然に聞く
会員登録はデータ収集の宝庫ですが、項目が多すぎると離脱の原因に。そこで有効なのが「プログレッシブ・プロファイリング」です。最初の登録は"メールアドレスのみ"など最小限にし、その後、マイページなどでメリットを提示しながら少しずつ情報を追加してもらいます。

4.2. 「楽しい」を入口にインサイトを得る
ユーザーが「楽しい」と感じる体験を通じて、自然にデータを提供してもらうのが、クイズや診断コンテンツです。これはコンテンツマーケティングの有効な手法の一つと言えます。「〇〇診断」といったコンテンツはSNSでのシェアも狙いやすく、新規ユーザーとの接点作りにも有効です。
4.3. 「聞く姿勢」でロイヤリティ向上
アンケートや投票は、ユーザーの声を直接聞くためのシンプルかつ強力な手法です。「サービス改善にご協力ください」という真摯な姿勢は、ユーザーのロイヤリティ向上にも繋がります。
4.4.データを統合・活用するMAツールとGA4
ここまでの手法で収集したゼロパーティデータと、サイト内行動履歴といったファーストパーティデータを統合・活用する上で、MAツール(マーケティングオートメーションツール)やGA4(Google Analytics 4)は中心的な役割を担います。
多くのWebサイトで導入されているGA4や、HubSpotのようなMAツールも、このファーストパーティデータを収集するための仕組みを持っています。どちらも自社サイトに設置した計測タグがファーストパーティクッキーを発行することで訪問者の行動を追跡しますが、その目的と得意分野は異なります。
収集したデータをもとに、MAツールを使ってユーザーの回答に応じたセグメントを作成し、パーソナライズされたメールマーケティングを展開するなど、継続的な関係構築に活用できます。
5. 【活用編】One to Oneマーケティングの実現へ
ファーストパーティデータ活用の最終的なゴールの一つが、ユーザー一人ひとりに最適な体験を提供する「One to Oneマーケティング」の実現です。
サイト訪問、メール開封、購買履歴、アンケート回答といった様々なタッチポイントから得られるデータを統合・分析することで、「このユーザーは今、何を求めているのか」という解像度が高まります。
その結果、Webサイトの表示コンテンツをパーソナライズしたり、個々の興味に合わせた情報を適切なタイミングでメール配信したりと、ユーザーにとって「心地よい」コミュニケーションが実現し、LTV(ユーザー生涯価値)の最大化に繋がるのです。
参考記事:サードパーティークッキーに頼らない!オウンドメディアマーケティング
参考記事:顧客一人ひとりの体験を最適化するOne to Oneコミュニケーションの実現方法
6. まとめ
ポストCookie時代は、データマーケティングのあり方が根本から見直される時期に来ています。サードパーティクッキーに頼った「追跡」型の手法から、ユーザーの同意と信頼をベースにした「対話」型の関係構築へ。このシフトが、これからの中心となります。
この「対話」を通じて得られる自社固有のゼロ&ファーストパーティデータは、今後ますます重要になるでしょう。
例え、多くの企業がAIを活用するようになっても、この自社だけのデータを掛け合わせることで、施策の最適化や他社との差別化が可能になります。
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