新規事業を阻む3つの悩みと、デザインの役割
「満を持して立ち上げた新規事業が、思うように軌道に乗らない」
「市場調査を尽くしたはずなのに、リリースしてみると顧客が定着しない」
新規事業に携わる多くの方が、一度はこの壁に突き当たったことがあるのではないでしょうか。その原因の多くは、頭の中にあるアイデアや会議室で決めた計画が、本当に顧客の欲しいものと合致しているかという仮説検証のプロセスが抜け落ちていることにあります。
地図を持たずに不確実な航海へ出るような、新規事業のゼロからイチ(0→1)のフェーズ。ここでプロジェクトを前に進めようとするとき、現場ではいつも同じような3つの悩みに直面します。
悩み1:アイデアを形にする方法がわからない
頭の中にある曖昧なアイデアをどうビジュアルや体験に落とし込めばよいか、優先順位がつけられない。悩み2:制作できるデザイナーが社内にいない
社内にデザイナーがおらず、外部の制作会社との伝言ゲームでスピードが鈍化してしまう。悩み3:事業化フェーズで大きな問題が起こる
開発に入った後で必要な仕様の考慮不足や、体験設計とのズレによる手戻りが発生し、想定外の再開発コストやスケジュール遅延に泣かされる。
私は、ADとしてデザインという専門性をベースとしながらも、要件定義の整理からUI/UX設計、さらにはアジャイル開発チームとの協働にいたるまで、プロジェクトの状況やチームの要望に合わせて役割のグラデーションを変えながら並走することを得意としています。
この記事では、デザインを新規事業の成功確率を着実に引き上げていくためのアプローチとして、現場でのリアルな気づきを含めてお話しします。
悩み1:「アイデアを形にする方法がわからない」へのアプローチ

抽象的な概念を、状況に応じて素早く「目に見える体験」へ落とし込む
新規事業の立ち上げ期には、検証するための対象が世の中にまだ存在しません。この段階で、いくら企画書やスライド資料だけで議論を重ねても、それぞれが頭の中に描いているイメージは驚くほどバラバラなことが多いものです。この認識のズレこそが、意思決定のスピードを奪う最大の原因になります。
そこで最初に行うのは、言語ベースのコミュニケーションではなく、デスクリサーチやユーザーインタビューなどの調査から見えてきたファクトをもとに、アイデアをプロトタイプとして形にすることです。
まだ事業プランのラフなアイデアが1枚あるだけという初期のタイミングからでも問題ありません。要件が固まりきる前の段階から画策し、本当に検証すべきコアとなる仮説の洗い出しから伴走することで、無駄な手戻りのないプロセスを初期フェーズから組み立てていきます。
ここで大切なのは、あえて綺麗に作り込みすぎないことです。紙に描いたラフなスケッチや、必要最低限の画面遷移図など、荒削りであっても体験の骨格が伝わるプロトタイプをスピード感を持って作ります。
【検証プロセスの変化が生む価値】
パワーポイントで資料を作り、合意形成を得ていくやり方では、ステークホルダーの合意形成に1カ月以上の時間がかかってしまうことも珍しくありません。しかし、このプロトタイプを使ったアプローチを取り入れることで、状況にもよりますが意思決定までの期間を2週間ほどに短縮できるケースもあります。実際に動く画面が議論の中心にあるため、経営層への提案や投資判断のスピードが格段に上がります。
悩み2:「制作できる人材がいない」へのアプローチ

「戦略」と「デザイン」を分断しない、一気通貫モデル
新規事業のフットワークを重くしてしまう構造的な問題。それは、「考える人」と「作る人」が分断されていることにあります。開発体制の中で多くの役割が細分化されていると、上流で描いた思想が形になるプロセスで徐々に薄れてしまい、最終的に実際のニーズからズレてしまったプロダクトができ上がってしまうことも少なくありません。
■ プロセスの比較
プロセスモデル | 体制と流れ | メリットと違い | 意思決定のロス |
分断型 | 事業企画 | 部分最適になりがちで、各プレイヤー間の伝言ゲームによるズレが発生しやすい。 | 大 |
一気通貫 | ADが企画段階からチームに入り、その場でプロトタイプを創出 | 戦略と実際のデザインが常に一致。検証、実装、ブランディングまでが地続き。 | 小 |
私は、世界観の方向性とクリエイティブ品質を監修するADとしての「表現力」と、サービスの体験を組み立てるUI/UXデザイナーとしての「設計力」の両方を強みにしています。
事業フェーズの初期段階からプロジェクトに加わり、戦略を具現化するための要件定義を主導しながら、UI/UX設計へとつなげる。なぜここから踏み込むのかといえば、ビジネスの仮説はユーザーの触れられる形(プロダクトやサービス)になって初めて、その真価を検証できるからです。要件定義から並走することで、ビジネスのゴールをブレさせることなく、最短距離で顧客に愛されるプロダクトデザインへと結実させることができます。
事業の狙いや背景を深く理解したうえで自ら要件を固め、それをプロトタイプへと可視化する。ユーザーテストを経て、ロゴなどのビジュアルアイデンティティやデザインまでを一貫して作り上げます。複数の関係者との調整に奔走する必要もありませんし、伝える途中でアイデアの熱量が損なわれることもありません。リソースと時間に制限がある新規事業開発において、非常に機能的なモデルだと実感しています。
悩み3:「事業化フェーズで問題が起こる」へのアプローチ

エンジニアが迷わず手を動かせるデータ設計で、想定外の手戻りを防ぐ
仮説検証を曖昧にしたまま開発の最終フェーズに進んでしまうと、リリース直前になって「やっぱりこれでは使えない」「システム要件的に厳しい」といった課題が見つかり、最悪の場合、プロダクトの作り直しを迫られます。
私の役割は、単に見た目の良い画面を作って終わりではありません。
その後の開発フェーズへとシームレスに引き継ぐために、Figmaなどを用いてあらかじめコンポーネントやデザインルールをシステム化して設計します。ボタンの定義や文字サイズなどの共通ルールを整えることで、エンジニアが迷わずに実装できるデータ構成で引き渡します。
もし、エンジニアが既存のシステム制約を抱えている場合でも、プロトタイプを用いてエンジニアと同じ目線で対話しながら、ビジュアルで体験を損なわないベストな妥協点をクイックに探り、データを調整します。
これにより、開発時の認識のズレが大幅に減り、引き継ぎ後の実装がスムーズになります。余計な手戻りコストを抑え、プロジェクトの推進スピードを維持することに直結します。
まとめ:新規事業に、デザインの力を
新規事業を軌道に乗せるプロセスは、いかに早く、無駄なリソースを抑えて顧客の本当に求めるものにたどり着くかという時間との戦いです。
そのためには、ビジネス戦略、エンジニアリング、デザインをそれぞれ独立した専門分野として縦割りにするのではなく、UI/UXや人間中心設計(HCD)、アジャイル開発を理解した人材が開発チームに入り込み、それらを具現化していく必要があります。
デザインの役割が、グラフィックの領域からデジタルプロダクト、さらにはサービスデザインやビジネスデザインへと広がっている現代において、提供したいのは形にするスキルだけではありません。
新規事業の不確実性を突破する「可視化」と「共創」の作法。これらを最初からチームの共通言語に据えることで、曖昧だったアイデアを回り道することなく少しずつ確かな形にしていきます。博報堂アイ・スタジオは、その挑戦を形にし、事業の成長を最後まで支える共創パートナーであり続けます。
※ 記載されている会社名・製品名は各社の商標または登録商標です。
よくあるご質問
Q1. 依頼する段階で、事業プランはどの程度固まっている必要がありますか?
A1. アイデアベースや、手書きのメモ書き程度でも構いません。むしろ、要件が固まりきる前の段階からご相談いただくことで、検証すべき仮説の洗い出しからご支援でき、手戻りを防ぐことができます。
Q2. 短期間のスポット依頼も可能ですか?
A2. はい、可能です。「まずはプロトタイプを作って社内プレゼンを通したい」「ユーザーテストの設計だけ手伝ってほしい」など、フェーズや課題に合わせて柔軟にプランをご提案します。
Q3. なぜアートディレクターが戦略や検証に関わるのですか?
A3. 戦略は絵になって初めてユーザーに伝わるからです。ADが上流から関わることで、ビジネスの意図を汲み取った最適なUI/UXを設計でき、さらに最終的なデザインまで一貫性を持ったクオリティーで仕上げることが可能になります。








