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同期と挑んだ“猫とテント”──モノづくりが好きな僕らが、Metro Ad Creative Awardでリベンジするまで。

前澤 拓実(アートディレクター)
2026-06-15
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入社して9年。アイスタとしては いわゆる「中堅」と言われる時期に差し掛かりました。
日々の業務に集中しすぎて、気づけば遊びの姿勢が弱くなっていた気がします。

そんな僕が、エンジニアである星野圭祐(以降、星野)と一緒に、自主制作のプロジェクトを動かし始めたのは、2025年の初めころのことです。今回は、デザイナーの視点から、「Metro Ad Creative Award(※1)」受賞に至るまでの試行錯誤をまとめました。

※1:Metro Ad Creative Award:東京メトロの交通メディアを最大限に活用し、新たな価値を生み出すことにつながる表現やアイディアに出会い、そうした才能の発掘および育成を目的としたアワード。

「いつか」を形にするための、大人なりの強制力

僕と星野は、同期です。30代になり、現場で数多くの案件をこなしてきました。Yell Selfieや大阪・関西万博での展示イベントなど、いくつかの大きなプロジェクトで一緒になる機会もあり、お互いの得意なことも苦手なことも、なんとなく分かっている間柄です。ただ、仕事として数々の打席に立たせてもらう一方で、心のどこかで「自分自身の表現」が置き去りになっているような、そんな漠然とした焦りがありました。クライアントの課題を解決するモノづくりはもちろん尊いけれど、それとは別に、自分たちの純粋な好奇心だけで動く場所が欲しかったんです。

毎週1時間、業務の合間に進める両立への工夫

それぞれの業務の合間に、「一緒に企画展や展示会に出展したいね」と話すようになったのが2025年の初旬ごろ。でも、僕らにとっての一番の壁は制作時間の確保でした。日々の業務に追われるなかで、「いつか何かやろう」という決意は、お互い締め切りに追われる日々だからこそ、放っておけばどんどん後回しにされてしまいます。結局、何も形にできないまま1年が終わってしまう……。そんな経験を繰り返してきました。

そこで僕たちが選んだのが、「締め切りのあるコンペに応募する」という方法でした。自分たちの意思だけに頼るのではなく、公的な締め切りという強制力を借りて、無理やりにでも時間を自分たちのために使うことに決めました。

実は、今回のMetro Ad Creative Awardに挑戦する前に、二人で成田空港のアワードに応募したことがあります。

そこではファイナリストまで残ったのですが、最終的には落選。今振り返ると、成田空港という公共の場所に寄り添いきれていなかった、場に合わない表現だったのが一番の原因だったと思います。 過去の航空事故や空港閉鎖をテーマにした、少しシビアで、重苦しいトーン。「作りたいもの」を優先するあまり、そこを訪れる人の気持ちを想像しきれていなかったんです。

「次はもっと、多くの人がポジティブになれるものにしよう」 そんな反省を抱えて、僕たちは次のリベンジの場を探し始めました。

Metro Ad Creative Awardのプロジェクトが本格的に動き出したのは、去年の秋ごろでした。8月までは万博関連の大きな仕事が重なっていたので、ようやく少しだけ精神的な余白が取れるようになったタイミングです。

よく「仕事と自主制作をどうやって両立させているの?」と聞かれますが、僕にとって自主制作は、仕事の延長というよりは、むしろ学びに近い感覚です。業務ではなかなか試せない新しい技術や表現を追求することが、結果的に仕事の幅を広げてくれる。だから、大変ではありますが、精神的にはむしろ良い刺激になっています。

進め方は、とてもシンプルです。 「週に1回、1時間だけ打ち合わせの時間を固定する」 これだけを徹底しました。お互い締め切りに追われる日々だからこそ、この「1時間」だけは何があっても死守する。そこでお互いが考えてきたアイデアを見せあって、実現できるかどうか、面白いかどうかを議論します。ビジュアルや動画周りは僕が担当し、星野がロジックや技術的な核を固めていきました。中堅になったからこそ、効率的かつ濃密に時間を使う術を、僕らは身につけていたのかもしれません。


“猫”という答えに辿り着くまで

猫に辿り着くまでの試行錯誤(魚・虫・猫)

今回選んだ課題は、コールマンの「ダークルーム・テクノロジー」でした。日光を遮断して、テント内を涼しく保つ技術。正直、最初は「暗くて涼しい」という機能をどうビジュアル化すればいいか、かなり悩みました。でも、元々コールマンというブランドが持つ前向きなイメージが好きでしたし、難しい課題だからこそ、自分たちなりの答えを見つけたいと思ったんです。

企画を練るなかで軸にしたのは、「生き物の本能」でした。暑い日には、人間も動物も、無意識に暗くて涼しい場所を探して、そこに吸い寄せられていきますよね。その自然な動きを表現できないかと考えていました。

でも、最初から今の形になったわけではありません。 「都会の交差点に、ぽつんとこのテントが置いてあったら?」 「サーモグラフィを使って、温度変化を視覚的に見せるのはどうか?」 そんな案も出ました。でも、サーモグラフィは少し技術的・説明的すぎて、駅のサイネージとしては退屈かもしれない。もっと直感的に「あ、いいな」と思ってもらえるものを探しました。

都会の喧騒のなかで、暑さに疲れた猫たちが、テントが作る「影」のなかにだけ行儀よく集まっている。そんなイメージが浮かんだとき、これなら駅でサイネージを見る一瞬の間に、誰かの心を動かせるかもしれない、という手応えがありました。

実は、猫ではなく「人間」を登場させる案もあったんです。でも、都会の真ん中で見知らぬ大人がテントの影にぎゅうぎゅう詰めになっているのは、少しシュールすぎて、怖くなってしまいそう(笑)。そもそも撮影の難易度も高すぎました。
公共の場での「癒やし」と「伝わりやすさ」を考えたとき、猫というモチーフが最適だという結論に、辿り着きました。

予算と時間の制約が生んだストップモーション

制作を進める上で一番の壁になったのは、やはり猫の撮影です。テントの中に猫を集めて演技をさせるのは、予算的にも時間的にも、難しそうでした。そんなとき、エンジニアの星野が提案してくれたのが、
「あえて実写ではなく、ストップモーション風に動かしてみるのはどう?」

というアイデアでした。これが結果的に、作品の個性につながりました。滑らかな動画を目指すのではなく、あえて少しカクカクした動きにすることで、サイネージとしての「独特の視覚的なリズム」が生まれたんです。 また、影が伸びるスピードを調整することで、15秒という短い時間のなかで、自然な「時間の経過」と「涼しさへの変化」を伝えることができました。

自分たちの持っている時間・リソースのなかで、いかに表現を最大化するか。1番いい形にできるか。エンジニアとデザイナーが膝を突き合わせて議論したからこそ、この「ストップモーション」というアイデアに辿り着けたのだと思います。

授賞式で味わったリアルな悔しさ

授賞式にて

ありがたいことにデジタルサイネージ部門のコンセプト・クラフト賞と協賛企業賞をいただくことができましたが、授賞式の会場で僕と星野が感じていたのは、達成感というよりも悔しさに近いものでした。

審査員の方からは、「猫の説明はなくても良いかと思いました」という注釈(コピー)がない方がもっと潔かったという、すごく鋭いご指摘もいただきました。

正直、痛いところを突かれました。猫以外の虫や生き物を出すことも想定していた名残で注釈を入れてしまったのですが、機能を説明しようとするあまり、少し要素を欲張りすぎてしまった部分は反省しています。「どこまで削ぎ落とせるか」を考え直せたのは、自分たちの名前で出した作品だからこそ得られた、貴重な経験でした。

僕も彼も仕事としての「落とし所」は分かっています。でも、もっと時間をかけて向き合えば、もっと違う景色が見えたのではないか。

仕事の評価とは違い、自分たちがゼロから作り上げたものだからこそ、その「あと一歩」が身に染みました。こんなに素直な悔しさを共有できる同期がそばにいることは、僕にとって大きな財産です。

<参考>受賞作品と審査員・協賛企業の選評

改めて「つくること」と向き合って


「やっぱり、グランプリを獲りたかった」と思えたことは、僕にとって結構新鮮な経験でした。誰から頼まれたわけでもなく勝負したからこそ、結果を他人のせいにできない。この年齢になって、真っ直ぐな悔しさを味わえたことは、これからの仕事や、後輩たちへの向き合い方にとっても、プラスになるように思います。


僕は美大出身ということもあり、学生時代から何かを作ることが生活の一部でした。入社して間もないころは、日々の業務に追われて自主制作を考える余裕もありませんでした。でも最近は、仕事のやり方も安定し、3Dや映像、ゲーム制作など、仕事の枠を超えていろんなモノづくりを楽しんでいます。

クライアント業務はもちろん大切です。でも、自分が純粋に楽しいと思って作ったものが、誰かに届いて、喜んでもらえる。その喜びは、デザイナーとしてのメンタルを健やかに保つために必要なものだと再確認できました。

実際に応募作品がサイネージとして展示されることになり、見てくれた人がどんな反応をしてくれるか今から楽しみです。今後もこのような「体験」を作る仕事を増やしたいし、どんどんチャレンジしていきたい。

星野も、以前は「オーダーに応えること」や「チームで参加する」がメインでしたが、今回の経験を通じて「技術を使って、どう人に喜んでもらえるか」という体験設計の面白さや、自分の名前で勝負することの大切さに改めて目覚めたようです。「僕みたいな変なことを考えるエンジニアがもっと増えれば、世の中はもっと面白くなるんじゃないか」と言っていた彼の言葉は、僕らデザイナーにとっても同じことが言えるはずです。

次の挑戦に向けて、僕たちはまた少しずつ手を動かし始めています。

出演者
前澤 拓実(アートディレクター)
「息をするようにつくる」をモットーにしている入社9年目。グラフィック、映像、プログラミングなどオンスクリーンの制作や、フィジカルな体験型コンテンツの企画・制作に従事。 最近のマイブームはAIバイブコーディングでくだらないものを作ること。
星野 圭祐(テクニカルディレクター)
2017年博報堂アイ・スタジオ入社。サーバーサイド領域からアプリ・インタラクション領域の開発、運用、ディレクションやライブ配信などの映像配信、そのほかAI技術や自社サービス系の研究開発まで幅広い領域での業務に従事。文化庁メディア芸術祭、The Webby Awards、ACC、Awwwards、Metro Ad Creative Awardなど多くの広告賞を受賞。 現在では大規模な映像演出やライブ配信、メタバースをはじめとしたXR領域、イベントコンテンツ制作などを中心に担当している。
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