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ビジュアライズの枠を飛び出し、論理で語るデザイナーの思考法

中村 直人(アートディレクター)
2026-05-20
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こんにちは!デザイナーの中村直人です。

「先に枠だけパパッと素敵にしといてください」
「中村さんのセンスでいい感じに何か埋めといてください」

プロジェクトの現場で、そんな風に声をかけていただくことがよくあります。もちろん、デザイナーを信頼してくださっての言葉ですし、プロとして見た目を美しく整えることは大前提ですから、非常に光栄なことです。しかし、正直に告白すると、その言葉を受け取るたびに、心のどこかで「デザイナーという仕事の本質は、実はそこではないんだ」という想いが静かに熱を帯びるのを感じます。

誤解を恐れずに言えば、世の中におけるデザイナーのイメージは、今でも表現者やアーティストの枠に留まっているように感じます。しかし、ビジネスの最前線で求められるデザイナーは、表現者である前に言語化できていないことを翻訳する役割であり、課題を解決する役割であるべきだと考えています。

表現と課題解決、これらは決して対立する概念ではありません。解決すべき課題というゴールがまず存在し、そのための有力な手段のひとつとして表現がある。つまり、プロジェクトにおけるデザインには、解決に向けた理由がなければならないのです。今回は、博報堂アイ・スタジオ(以降、アイスタ)のデザイナーとして私が日々大切にしている思考法やマインドについて、お話ししたいと思います。

ポイント1:指示の裏側にある真意を読み解くヒアリング術

クライアントから「このボタンをもっと大きくしてほしい」「もっと目立つ色にしてほしい」といった具体的な修正依頼を頂くことがあります。このとき、言われたとおりにサイズを2倍にし、色を鮮やかにするだけなら、それは作業であってデザインではありません。

デザインを解決策とするならば、私たちはまず「何が問題で、その指示がなぜ出たのか」という解像度まで高める必要があります。

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感性と論理を掛け合わせる

ヒアリングの際、最も避けなければならないのは、抽象的な言葉で対面している相手と目線が合った気になってしまうことです。「いい感じに」「シュッとさせて」といった言葉で合意したつもりになっても、アウトプットの段階で大きな乖離が生まれては意味がありません。

そこで私は、2つのアプローチを徹底しています。
1つは、「自らの言葉で具体的に言語化し直す」こと。例えば、相手の要望を「つまり、生活者が次にとるべき行動に迷わないよう、視覚的なプライオリティーを整理したいということですね?」と翻訳し、言葉の定義を合わせます。
もう1つは、「ツールを用いた見える化」です。本格的な制作に入る前に、簡易的なプロトタイプやリファレンスを提示し、解像度を早い段階でクライアントと握り合います。このプロセスを経ることで、デザインは感性のぶつかり合いから論理的な構築へと変わります。

言われたこと+解決策の提示

私は、相手が求めていることをそのまま表現するだけではプロとして不十分だと考えています。

例えば「ボタンを大きくして」と言われた際、指示どおりに大きくした案(A案)に加えて、あえて大きくせず周囲の余白を広げることで視線を誘導したり、トーン&マナーに合わせた装飾を施した解決案(B案)を必ず提示するようにしています。

「イメージどおりに作成したものがこちらですが、本来の目的である『目立たせる』という点では、こちらのB案の方が全体のトーン&マナーを壊さずに解決できます」

なぜこちらの提案が良いのか。その理由を論理的に説明し、プラスの価値を提供すること。これこそが、作業者ではない「デザイナー」としての存在意義です。

ポイント2:ブランディングとマーケティング 両輪の視点

デザインを課題解決と定義する以上、ビジネスの結果から逃げることはできません。ここで私たちが向き合うべき最大の問いは、その解決策はいつまで機能し続けるのかということです。

私は以前、経営に近い立場で数字を直接追いかける経験をしてきました。そこで痛感したのは、短期的な数値目標(マーケティング)だけを追い求めたデザインは、長期的にはブランドの寿命を削り取ることになりかねないという事実です。

数字だけを求めた先にあるもの

例えば、短期的な売上のために、画面いっぱいに安売り訴求や煽り文句を並べるデザイン。これは一時的な数値(CVR)を跳ね上げる解決策にはなります。しかし、その引き換えに生活者のなかに「こういうことをするブランドなんだ」という感情が芽生え、ひいてはブランドの印象を形成していくことにつながります。それは未来のビジネスチャンスを失う可能性を秘めているのです。

本当の意味で「課題を解決する」ということは、目の前の数字にコミットしながら同時にブランドイメージを新たに作ったり、守っていくことなのです。

機能的価値と情緒的価値でブランドは形成される

ここで私がよく考えるのが化粧水の例です。成分がほぼ同じ2つの製品があったとしても、洗練されたボトルを手に取ったとき、人は「自分を大切にしている」という高揚感や「綺麗になれる予感」という付加価値を感じます。このように、ブランドが積み上げてきた機能的・情緒的価値に生活者が深く共感することが、購入の決め手となります。この共感こそが『使い続けたい』という意欲を醸成し、LTV(顧客生涯価値)の最大化、ひいてはブランドのファン化へとつながっていくのです。

プロジェクトにおけるデザインのゴールとは

アイスタでの私のキャリアはまだ日が浅いですが、ビジネスの現場において、売上などの最終的な数値はクライアントしか知り得ない聖域であることも少なくありません。では、私たちデザイナーは何をもってその成果を測るべきか。

施策後の会社やブランドの売上を定点観測し、きちんと貢献できているのかという視点と、施策内で決まっているKPI(重要業績評価指標)が達成しているのかというブレイクダウンした視点を持つことが大切です。しかし、数字はあくまで結果の一側面。数値上での貢献とともに作ったものがその場限りでなく、ブランドの資産として目指している将来像のなかで一端を担えているのかをクリエイティブのパートナーとして中長期的に伴走し続けること。それこそが、これからのデザイナーが目指すべき姿だと思っています。

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ポイント3:答えのない世界で自信を持つための、消去法による検証

クリエイティブには、算数のような明確な正解がありません。100通りの正解候補が生まれる世界で、私はあえて良い理由ではなくダメな理由を探す検証スタイルをとっています。

3つの視点からアイデアをあぶり出す

私はアイデアを考える際、常に以下の3つの視点を行き来しています。

  1. 社会:今の世の中の空気感に合っているか

  2. 企業(ブランド):その企業らしい佇まいか

  3. 生活者:使う人が本当に使いやすいか

特にロゴデザインのような、企業のアイデンティティーを凝縮する仕事は過酷です。数えきれないほどのラフを描きますが、その多くを自らボツにします。

「これはかっこいいが、生活者には意図が伝わらない」

「これはブランドらしいが、社会的に受け入れられない」

こうして徹底的にダメな理由を突きつけ、消去法で生き残った案には、もはや揺るぎない根拠が宿ります。何個ものボツ案を自分のなかに積み上げるのは、心配性だからかもしれません。しかし、その怖さを論理性で武装し、最後に残った1案を持って「これが最適解です」とクライアントに言い切る。そのプロセスが、アウトプットの強度を極限まで高めてくれるのです。

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結び:デザインを、ひらかれた武器に

最後に皆さんに伝えたいのは、デザインはデザイナーだけの特権ではない、ということです。

今日のスケジュールをどう組むか、会議でどんな質問を投げるか。あるいは、日々の行動にどんな意図を込めるか。それらはすべて、より良い未来を設計しようとする「デザイン」そのものです。人間はルーティンを好む生き物ですが、漫然と過ごすのではなく、「なぜそれをするのか」という意図を持つだけで、世界の見え方は大きく変わります。

デザイナーは異質な存在ではありません。クライアントの側に立ち、その想いを翻訳し、形にする伴走者です。この記事が、皆さんの仕事のなかに、少しでも解決のためのデザイン視点を取り入れるヒントになれば、これ以上の喜びはありません。

執筆者
中村 直人(アートディレクター)
2025年入社。神奈川県出身。ファッション・ビューティーを始めとする高感度産業のECサイトやブランドサイトを経験。アートディレクションを基軸としつつ、事業運営の経験を生かして会社やブランドの事業課題の解決に向けた伴走支援をすることで職種を超えた業務に携わる。
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