現状を知る
提供している製品やサービスは、ユーザーに受け入れられているでしょうか?良いものが提供できたと思っているのに評価が上がらないとしたら、何かしらの「引っかかりポイント」があるのかもしれません。
ユーザーに直接話を聞くインタビューやアンケートは、課題発見の大きなヒントになります。しかし、実施に時間を割くことが難しかったり、回答者の表面的な言葉だけでは本音が見えにくかったりするという課題もあります。
こうした直接的なユーザー調査が難しい場合でも、効率的に現状を把握できる手法として、専門家がユーザーの視点で使い勝手を調査し改善点を見つける、「エキスパートレビュー」というものがあります。
この手法では、UXやユーザビリティの専門家が、評価基準として用いる「ユーザビリティ原則(ヒューリスティック)」や「WCAG(ウェブアクセシビリティ)」と、自身の経験則を用いて調査を行います。
それぞれの評価基準が具体的にどのようなものか、例をあげてみましょう。
①ユーザビリティ原則(ヒューリスティック)の観点
例1:メール送信
メールを送信したとき、「メールが送信されました」と表示されることで相手に送信できたことがわかり、エラーの場合は送信エラーが表示されます。また、未読メールの件数が表示されることで閲覧していないメールの数がわかります。
例2:オンラインショッピング
購入したい商品をカートに入れたら「カートに入りました」のメッセージが出たり、カートのアイコンに数字が表示されることで、現在の状況を正確に把握することができます。
②WCAG(ウェブアクセシビリティ)の観点
例1:理解可能
背景色と文字色のコントラストが保たれているか、リンクが適切に表現されているかなど、読みやすさ、使いやすさ、次に何をすればいいのかの分かりやすさを確認します。
例2:操作可能
動画の自動スクロールをユーザー自身で停止できるか、Webページをキーボードだけでも操作できるかなど、誰もが利用しやすい状態であるかを確認します。
注意点として、このエキスパートレビューは専門家の知識と経験に依存するため、個人のスキルや認知バイアス(先入観)に影響されることがあります。そのため客観性を担保し精度を高めるには、複数の専門家で評価することが望ましいとされています。

調査では実際に画面の閲覧と操作を行い、利用体験がどうであったかを評価します。具体的にどんな手順を踏むのか3つのステップでご説明します。
①調査観点
まず最初に必要なのは、良い悪いを判断するための評価の軸となる調査観点ですが、これがあることで評価者が複数名でもブレがなくなります。ユーザビリティ原則に加えて、ブランド価値がアピールできているか、WCAG(ウェブアクセシビリティ)に配慮しているかという観点からも評価をします。

②調査対象の選定
次に、調査対象を選定しますが、限られた予算と時間の中で改善を検討する訳ですから、かけられる時間と予算に合わせて対象ページを決める必要があります。例えば解析データの数値を参考によく見られているページ、サービスや製品の主要なページ、入り口のページ、リード獲得につながるページなどを選定して評価を行います。
③調査実施
評価を行う対象ページが決まったら、レビューを行います。Webサイトには何らかの目的を持って訪れますので、その対象ユーザーとなって実際に画面操作しながら見ていきます。例えば、掲載されている情報量や画面占有状況は適切か、押すべきボタンや次へのアクションがわかりやすいUIになっているかを確認します。また、色や形、文字サイズなどの視認性、エラーが起きていないか、ユーザー自身が操作ができない仕様になっていないかなども併せて確認します。調査にあたっては、PCとスマートフォンのどちらを利用した場合でも、デバイスの特性に応じてユーザーが利用しやすい体験となっているかを確認します。
レビューでわかること
実際に目的を持ってユーザー視点でWebサイトを閲覧し、画面を操作していくと見えてくるものがあります。以下に一例を記します。
文字サイズが小さいので表示倍率を大きくしたくなる
行間が狭いため、文章が読みづらくなっている
色が薄くて視認しづらい状況となっている
知りたい情報へどこから行けば良いのか見つからない
クリックやタップする範囲が狭くて操作しづらい
操作した後の挙動が思っているものと違う
一度に提示される情報が多すぎて頭に入って来ない
画像上の文字が読めない
知りたい情報でないものが何度も告知される
動画表示に時間がかかる
このような課題が見つかります。
一般的にWebサイトを訪れるユーザーは欲しい情報を素早く見つけたいと思っているし、何か新しい情報に出会えると思っている人もいます。提供する側としては、ユーザーの望むものをより早く丁寧に提供したいですね。それだけではなく、訪れた人にワクワク感や心地良さも感じて欲しいと思っています。


他社を知ることで発見がある
Webサイトの調査では自社だけではなく、他社のWebサイトも調査することで、「A社ではこんな情報を掲載している」「B社で使われているこの機能は便利」「C社のこの見せ方はわかりやすい」など、自社にない発見ができます。自社には今はないものの、取り入れることでよりよくなる要素があれば、理想とする姿を描く際に改善施策として提示します。他社の良いところを自社に最適化して取り入れることは模倣ではなく必要なアップデートです。なぜなら、他社のWebサイトを利用しているユーザーにとっては、そこで得た便利さが当たり前の標準だからです。その標準に追いついていないとしたら、是正した上で追い越すというベンチマークになります。

課題から改善策を提示する
Webサイトのレビューで見えてきた問題点を課題としてリストアップし、その解決に向けてどんな打ち手が必要か改善策を提示します。
※まとめ方はプロジェクト毎に異なります。

誰に、何を届けるのか?
抽出した課題に対して改善策を検討するわけですが、ここで重要なポイントがあります。
それは、「このWebサイトは、そもそも誰に、どのような価値を提供するためのものか?」という、必ず立ち返るべき問いです。
ターゲットユーザーが定まっていない状態では、「誰に向けて」「何を届けたい」のかが曖昧なまま、自分たちが売りたい、提示したいものを載せてしまうという状況に陥ります。提供する商材やサービスによっては全方位的に提供したいという状況もあるでしょうが、最初からオールターゲットを対象とするのではなく、まずファーストターゲットを決めて入り口を絞ります。その上でセカンドターゲット、さらにその次というように、ターゲット毎に入り口と提供する情報を変えて提示する工夫が必要です。それによって、ユーザーが目的の情報に辿り着きやすく、探し出しやすくなります。
ターゲットユーザーが明確な場合: 現状の足りていない点を洗い出し、こう改善すれば届けたいユーザーに価値を提供できる、という視点で改善策を提示します。
ターゲットユーザーが曖昧な場合: Webサイトをレビューする前に、「誰に」「どのような価値を届けるべきか」の議論から始めます。企業の戦略としてターゲットユーザーを設定していて、それを具体的に共有できていないだけの場合もありますので、プロジェクトメンバー全員の共通認識として擦り合わせを行い、Webサイトが目指す方向性を定めることから始めます。ワークショップという形でお手伝いすることも可能です。ただし、どうしてもレビューだけして欲しいというようなケースで、事前のヒアリングができない場合には、仮説ペルソナを設定した上で、このペルソナならこんな行動をして、こんな反応や感情を持つだろうといった視点でレビューを行います。レビューをきっかけとして、どのターゲットユーザーに何を届けるのか提供価値の議論から始め、解像度を深めていけるような示唆と改善策を提示します。
人間中心という考え方
本記事ではエキスパートレビューを中心にご紹介しましたが、実際のプロジェクトでは、これ以外にもさまざまな分析や手法を用います。どのような手法を用いる場合であっても、常に仮説に基づいた検証をするわけですが、そこで私がベースとして大事にしているのは「人間中心」という考え方です。
こうあってほしいという提供側の都合を押し付けたものになっていないか?
ユーザーの目的達成をスムーズに手助けするものになっているか?
ユーザーを中心として考えられているかを常に自問自答しながら仮説検証を実行し、本質的な課題を探り当てていく、それが役割だと思っています。
伝えるということ
仮説を検証し実態を明らかにするために調査を行い、調査結果を分析して改善提案を行う、これが一連の流れとなります。これらの結果を報告書として提示し、次のフェーズへ進んで良いか判断をしていただきます。補足ですが、Webサイトのレビュー時はその歴史や関係者の想いを考慮することはありません。しかし、報告書を記載する際は、否定されていると受け取られないように伝えることを意識する必要があります。
Good / Improvement: 単に「悪い点」を指摘するのではなく、「良い点」を認め、尊重した上で、「さらに良くするための改善点」としてお伝えします。
意図の尊重: 「このような意図でデザイン(仕様)したのかもしれませんが」と問いかけをすることで制作背景にある意図を尊重します。「〇〇という意図があったのかもしれませんが、ユーザー視点だと△△と誤解される可能性があります」というように制作者への敬意を払うことを忘れないようにします。
おわりに
プロジェクトに関わる方が、提供する側の視点をユーザー視点に置き換えて語ることができるようになり、ユーザーに優しいサービスの提供、製品やアプリの開発がされるようになります。プロジェクトのスタートから改善サイクルを回していくその先まで、UXデザイナーとしてお手伝いをさせていただけたら嬉しいです。
「ユーザーが望んでいる価値を提供できているか」
それを検証するために、まずは現状把握から始めてみませんか?

私たちのチームが行ったプロジェクト支援についてはEXPERIENCE DESIGNのWebサイトでご紹介していますので、ぜひ覗いてみてください。
[ EXPERIENCE DESIGN ]のWebサイトはこちら
※注記:今回ご紹介したフレームワークは専門家視点の解説であり、博報堂アイ・スタジオが常にこのフレームワークを用いているわけではありません。どんな手法や進め方をするかは評価する対象とその目的に応じてプロジェクト毎に異なります。
よくある質問
Q1. 特定のページだけでもレビューをお願いできますか?
A1. はい、もちろん可能です。ご予算、スケジュールに応じて対象範囲を絞ってレビューを行います。
Q2. BtoBの特殊な業界のWebサイトなのですが、専門家の方に判断していただけるのでしょうか?
A2. 業界特有の慣習や知識については事前にヒアリングさせていただき、インプットした上で行わせていただきます。その時間が取れない場合には、例えば新卒の方や異動により配属が変わった方がそのWebサイトやシステムを初めて使うことになったとして、理解しやすいのか、用語や画面遷移はわかりやすいか、操作実行後の反応は適切か、というように利用者を想定してレビューします。
Q3. まだリニューアルの予算が確定していませんが、相談しても良いですか?
A3. もちろんです。現状のどこに問題があるのかをレビューによって可視化することで、社内の予算取りや上申のための説得材料として活用されるケースが多くあります 。
Q4. レビューにはどのくらいの期間がかかりますか?
A4. 対象範囲にもよりますが、標準的なレビューであれば3週間〜1カ月程度で初期診断が可能です。








