DXは生活者の価値観や生活スタイルの変化を捉えた顧客体験設計がベースであるべき
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、デジタル技術を使ってビジネスを変革することですが、その中心にいるのは常に「人(ユーザー)」です。
近年、スマートフォンの普及やSNSの影響、さらにはAI技術の進化により、生活者の価値観や行動様式は劇的なスピードで変化しています。これに伴い、企業が提供するWebサイトやアプリなどのデジタル接点に対するユーザーの期待値も上がっています。
UX(ユーザー体験)とUI(ユーザーインターフェース)の違いと関係性
DXを推進する上で、まず明確にしておきたいのが「UX」と「UI」の違いです。この2つは混同されがちですが、役割が異なります。
UI(User Interface): ユーザーが触れる「接点」。Webサイトのデザイン、ボタンの配置、フォントの見やすさ、操作性などを指します。
UX(User Experience): UIを通じてユーザーが得られる「体験全体」。使いやすさはもちろん、「楽しい」「便利だ」「信頼できる」といった感情や、課題が解決された満足感を含みます。
優れたUI(見た目や操作性)は重要ですが、それ自体は手段に過ぎません。「UIという手段を通じて、どのようなUX(価値ある体験)を提供するか」という視点が、DXにおけるサービス設計のベースになければなりません。
ユーザーの潜在的なニーズや行動データを分析し、「なぜその行動をとったのか」という文脈を理解すること。そして、それに基づいた最適な体験を設計することこそが、競合他社との差別化につながります。
DXを成功させるために必要なプロセスとは?
では、実際にユーザーの心を掴み、ビジネス成果(CVやLTV向上)につなげるためには、どのような手順でプロジェクトを進めればよいのでしょうか。
感覚や経験則だけに頼ったリニューアルや新規開発は、失敗のリスクが高まります。重要なのは、「定性・定量のデータ」に基づいた客観的なプロセスを踏むことです。
私たちは、DXにおけるサービス設計を以下の3つのプロセスに大きく分類しています。
【調査・設計】 どんな体験を提供すべきか顧客視点で設計する
【構築・実装】 設計した顧客体験を提供するサービスを構築する
【分析・改善】 設計した顧客体験がワークしているかを定量的に分析しブラッシュアップする
このフローは一方通行ではなく、プロセス3の結果をプロセス1にフィードバックし、常にサービスを成長させ続ける「循環型」のモデルであることが理想です。次章より、各プロセスの具体的な手法とポイントを解説します。

参考eBook:マーケティングDX推進3つの落とし⽳と回避策
プロセス1:どんな体験を提供すべきか顧客視点で設計する
最初のステップは、徹底的な「リサーチ(調査)」と「ユーザー理解」です。いきなり画面のデザイン(UI)を作り始めるのではなく、まずは「誰に、何を、どのように提供するか」という戦略を固めます。
現状分析と課題の抽出
既存のWebサイトやサービスがある場合は、アクセス解析ツールを用いて現状のパフォーマンスを定量的に評価します。 「離脱率が高いページはどこか」「コンバージョンに至らないボトルネックは何か」といった課題をデータから特定します。
定性調査によるユーザーインサイトの発見
数値データだけでは見えない「ユーザーの感情」や「背景」を知るために、定性調査を行います。
ユーザーインタビュー: ターゲット層に直接ヒアリングし、悩みやニーズを深掘りします。
行動観察: 実際の操作風景を観察し、無意識の行動やつまずきを発見します。
参考記事:定量調査・定性調査を武器に。データで導くWebサイト改善
ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成
調査結果を元に、典型的なユーザー像である「ペルソナ」を設定します。そして、ペルソナがサービスを認知し、利用し、ファンになるまでの行動と感情の動きを「カスタマージャーニーマップ」として可視化します。 これにより、プロジェクトメンバー全員が「誰のためのサービスなのか」という共通認識を持ち、ブレのない設計が可能になります。

参考eBook:ペルソナとカスタマージャーニーの作り方
プロセス2:設計した顧客体験を提供するサービスを構築する
ユーザーのニーズが明確になったら、それを具体的な形(サービス・Webサイト)に落とし込むフェーズに入ります。ここでは、設計したUXを最適なUIで表現する技術が求められます。
情報設計(IA)とワイヤーフレーム
ユーザーが迷わず目的を達成できるよう、Webサイト構造やナビゲーション(情報設計)を整理します。その後、画面のレイアウト図である「ワイヤーフレーム」を作成し、情報の優先順位や配置を決定します。
プロトタイピングによる早期検証
完成品を作り込む前に、簡易的な試作品(プロトタイプ)を作成することを推奨しています。 プロトタイプを用いて実際のユーザーに近い人に操作してもらう「ユーザビリティテスト」を行うことで、開発前に設計ミスや使いにくさを発見できます。 「ボタンが見つけにくい」「文言の意味が伝わらない」といったUIレベルの課題から、「そもそもこの機能は必要か?」という根本的な課題まで、リリース前に修正することで手戻りを防ぎ、品質を高めることができます。
UIデザインの実装
検証結果を反映し、最終的なビジュアルデザインを作成します。ここでは、ブランドイメージを表現するだけでなく、アクセシビリティ(誰にとっても使いやすいこと)や、マルチデバイス対応(スマホ、PCなど)も考慮し、快適な操作性を実装します。

参考記事:WebサイトのCVRを最大化するUI/UX設計とは?リード獲得を成功に導くポイント
プロセス3:設計した顧客体験がワークしているかを定量的に分析しブラッシュアップする
DXにおいて最も重要なのは、「リリースしてからが本当のスタート」という考え方です。サービス公開後は、実際のユーザー行動データを収集・分析し、継続的な改善(グロースハック)を行う必要があります。
定量データに基づく効果測定
リリース前に設定したKPI(重要業績評価指標)に基づき、成果が出ているかをモニタリングします。
CVR(コンバージョン率): 目的を達成したユーザーの割合
滞在時間・回遊率: コンテンツへの関心度
スクロール率: ページのどこまで読まれているか
ヒートマップツールなどを活用した分析
数値だけでなく、ヒートマップツールなどを導入することで、ページのどの部分が熟読されているか、どこでクリックされているかを視覚的に分析できます。 「意図した導線が機能していない」「重要なコンテンツが見られていない」といった課題を可視化し、具体的な改善策(ボタン位置の変更、コンテンツの並び替えなど)につなげます。
データから「仮説」を導き出し、具体的な施策へ落とし込む
分析ツールで課題が見えたら、次は「なぜそうなっているのか?」という仮説を立て、施策を実行します。ここでは、データ分析が実際のビジネス成果に結びついた具体的なエピソードをご紹介します。
かつて私が担当したコミック配信サービスの事例です。当時、「顧客単価を上げたい」という課題に対し、データを分析したところ、単価の高い優良顧客とそうでない顧客の違いが「新しく読み始める作品のまとめ買い冊数」にあることを発見しました。
そこから、「1冊ずつではなく、まとまった冊数を一気に読むことで作品の世界観に没入し、続きを読みたくなるのでは?」という仮説を立案。 この仮説に基づき、「5冊以上のまとめ買いで25%ポイント還元」という施策を実行したところ、狙いどおり単価向上につながる成果が得られました。

【最新潮流】プロセスを加速させる「生成AI×データ分析」の視点
ここ1〜2年で、DXやサービス設計の現場には「生成AI(Generative AI)」という強力なパートナーが登場しました。 従来のプロセスはそのままに、AIを活用することで、分析の精度とスピードを劇的に向上させることが可能になっています。
定性データ分析の効率化と深化
これまで膨大な時間がかかっていたユーザーインタビューの書き起こしや要約、アンケートの自由記述回答の分析などは、AIが最も得意とする領域です。 AIを活用することで、大量の「ユーザーの声」から頻出するキーワードや感情の傾向を瞬時に抽出し、人間では見落としていたかもしれないインサイト(洞察)を発見する手助けをしてくれます。
データドリブンな意思決定のサポート
アクセス解析データの分析においても、AIは活用され始めています。 「先月と比較してCVRが低下した要因は何か?」といった問いに対し、AIがデータを探索し、仮説を提示してくれるツールも登場しています。 これにより、担当者はデータの集計作業から解放され、「データから何を読み解き、どのような施策を打つか」という意思決定や、クリエイティブな改善案の立案により多くの時間を使えるようになりました。
これからのサービス設計プロセスでは、人間の専門知識(UXデザイン力)と、AIの処理能力(データ分析力)をうまく組み合わせることが、プロジェクトの成功確率をさらに高める要因となるでしょう。
まとめ:UX×データ分析で「使い続けられる」サービスへ
DXの成功は、システムの導入自体ではなく、その先にある「ユーザー体験の変革」によってもたらされます。 データ分析によって客観的な事実を捉え、UXデザインによってユーザーの感情に寄り添う。そして、最新のAI技術も味方につけながら改善を続ける。 このプロセスを愚直に実践することで、貴社のサービスは「使い続けられる」資産へと成長するはずです。
「自社サイトの課題をデータから洗い出してほしい」 「UX視点を取り入れたリニューアルを行いたい」
このようにお考えの方は、ぜひ一度お問い合わせください。豊富な実績を持つ専門チームが、貴社のDXプロジェクトをサポートいたします。
UXとデータ分析に関するよくある質問(FAQ)
Q1:WebサイトのUX改善は、どこから手をつけるべきですか?
A:まずは「現状の健康診断」から始めることをお勧めします。 具体的には、アクセス解析データを見て「離脱が多いページ」や「直帰率が高いページ」を特定することです。そこがユーザーが何らかのストレスを感じている(UXが損なわれている)箇所である可能性が高いため、そこを重点的にヒアリングやユーザビリティテストで深掘りすることで、効果的な改善策が見つかります。
参考記事:【連載 第1回】はじめの一歩:Googleアナリティクスで、あなたのWebサイトの『今』を見てみませんか?
Q2:UIデザインを変えるだけでUXは向上しますか?
A:UIの改善はUX向上の一部ですが、全てではありません。 例えば、ボタンを押しやすくする(UI改善)ことで操作性は上がりますが、そもそも「ボタンを押した先にユーザーが求めている情報があるか」というコンテンツの質や文脈設計が間違っていれば、良い体験(UX)にはなりません。UIはあくまで、ユーザーが価値に到達するための「手段」であると捉え、全体設計を見直すことが重要です。
Q3:予算が限られており、大規模なリサーチができません。
A:スモールスタートでも十分な効果が得られます。 数百人を対象とした大規模調査ができなくても、例えば「実際のユーザーに近い社内の人間に触ってもらう」「既存の問い合わせ内容(ログ)を分析する」「競合サイトを徹底的に使い込む」といったことでも、多くの気づきが得られます。重要なのは、作り手の思い込みだけで進めず、少しでも客観的な視点を取り入れることです。
Q4:BtoBサイトでも、このようなUX設計プロセスは必要ですか?
A:はい、BtoBこそUX設計が重要です。 BtoBは検討期間が長く、複数の決裁者が関わるため、Webサイトには「誰が見てもわかりやすい」「必要な資料がすぐに見つかる」「信頼感がある」といった体験が求められます。複雑な商材をわかりやすく伝える情報設計や、スムーズな問い合わせ体験を提供することは、営業機会の創出に直結します。








