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10,000種類のフワちゃんが誕生!? 画像生成AI活用SNS企画「LIFULL『しなきゃ、なんてない。』AI 10,000変化」制作秘話

しなきゃ、なんてない。AI制作チーム
2024-02-16
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2023年8月末に実施した、LIFULL様のX(旧:Twitter)企画「LIFULL『しなきゃ、なんてない。』AI 10,000変化」。博報堂アイ・スタジオは、画像生成AIを使った制作を行いました。この記事では、その制作秘話を紹介します。

世の中的にも生成AIを活用した企画が少ない中、テクニカルなチャレンジだけでなく、目的のために生成AIを活用する「プランニング力」や、クライアント企業や事務所を含めプロジェクトを円滑に進める「プロデュース力」が問われた本プロジェクトの裏側をお話しします。

施策概要

本プロジェクトは、「しなきゃ」という既成概念から生じる世の中のさまざまな社会課題に対して、「LIFULL HOME’S」「LIFULL 介護」などLIFULL様が提供するさまざまなサービスを通じて課題解決に向けて取り組んでいる企業姿勢を発信することを目的に動き出しました。

そこで、LIFULL様の企業メッセージ「しなきゃ、なんてない。」に基づき、さまざまな既成概念に捉われない生き方を表すテーマに合わせて変身したフワちゃんのAI画像を1万パターン制作。LIFULL様のXアカウントをフォローし、キャンペーン投稿をリポストすると、そのAI画像がランダムで1枚返ってくるSNS企画による施策を行いました。

博報堂アイ・スタジオでやったこと

課されたミッション

本プロジェクトで博報堂アイ・スタジオに課されたミッションは、「しなきゃ、なんてない。」をテーマに変身した1万種類のフワちゃんのAI画像を生成し、本施策を成功させることでした。

しかし、AIに対する世の中の状況は、生成AIを活用したバーチャルモデルが登場したり、ChatGPTが広がり始めたりと、まだまだAIの活用方法を探るような段階で、広くは浸透していませんでした。ましてや、生成AIを活用した企画は少なく、タレントを起用した生成AIの事例は見当たらない状況。

そのような中で、クリエイティブディレクター、デザイナー、エンジニア、プランナー、ディレクター、法務、事務局など、社内から多岐に渡る職種を集め専門チームを結成。それぞれの分野の知識を集結させ、このミッションに挑みました。

どう成功に導いたか?

では、どうやって1万種類のAI画像を生成し、本施策を成功へと導いたのか?その裏側を、制作フローに沿ってお話します。

1.AIツールの選定&AI学習

画像生成AIと言っても近年、さまざまなサービスやツールが存在しています。今回のプロジェクトを進めるにあたって、課題(著作権や知的財産権を侵害する可能性がある点など)を法務も含め協議し、LIFULL様にもご理解をいただいた上で、後述する画像を生成できる、商用利用が可能なAIツールを選定しました。

フワちゃんに似せた画像を生成するためには、画像生成AIにフワちゃんの特徴を学習させる必要があるため、所属事務所より提供していただいた画像を元に学習させる画像を選定。設定を調整しながら何度も学習させ、オリジナルの生成モデルを作り上げました。

2.生成する画像イメージを検討

LIFULL様から、企業メッセージ「しなきゃ、なんてない。」に合わせた150個以上のテーマをいただきました。それを踏まえて博報堂アイ・スタジオでは、LIFULL様が伝えたい「既存概念に捉われない生き方」をユーザーにわかりやすく伝えるために、どのように画像生成AIを活用し、各テーマごとにどのような画像を作るかを検討しました。

画像生成AIのメリットは、現実にはないユニークな状況や姿の画像を作れることです。それを活かし既存概念に捉われない生き方を表現した画像を作ることで、ユーザーに楽しみながら見てもらえるのではと考えました。

具体的には、下記画像のように「年をとったら第一線から退かなきゃ、なんてない。」というテーマであれば、「ステージでイキイキとギター演奏している高齢のフワちゃん」といったように、まだ現実には存在しない未来のフワちゃんの姿を画像で作ろうと考えました。そこから、画像生成AIに指示する際に必要となる要素を洗い出し、実際に生成することにしました。

この流れを、150個以上のテーマ一つひとつに対して、どのような画像であればメッセージがより伝わるかを考えながら、検討していきました。

3.画像生成

全体の画像の品質を担保するため、基本となるプロンプト(AIへの命令文)を作成してから、画像生成を開始しました。しかし、全てのテーマにこの基本プロンプトを適用できる訳ではありませんでした。

例えば、基本プロンプトに「きれいな肌」と入れてしまうと、高齢のフワちゃんを生成したい場合も「きれいな肌」となり年齢を表現できなくなってしまいます。そのため、各テーマに合わせて、基本プロンプトを調整しながら画像を生成していきました。

また、同じテーマでもさまざまなバリエーションの画像が生成されるように、服装や背景、構図を変えるなど工夫しながら画像生成を行いました。

4.クライアント企業・事務所と画像イメージの擦り合わせ

画像生成AIを活用した事例が少なかったため、社内・LIFULL様・事務所含めプロジェクトメンバーそれぞれの生成画像のイメージが異なっていました。

そのため、工程2.3と同時並行で、複数枚のサンプルを生成し本施策で作る画像イメージを共有したり、下記「注意すべきポイント」に記載した画像生成AIが苦手とするポイントなどを話したりして、プロジェクトメンバー全員が共通認識を持つようにしました。

5.大量生成できるシステム・ワークフローを整備

工程3で基本のプロンプトは構築したものの、体が崩れた画像が出来てしまうなど、全て綺麗な画像が生成される訳ではありません。

そのため、品質を保ち1万枚の画像を納品するには、プロンプトを何度も調整しながら、その何倍もの画像を生成できる環境・ワークフローを整備する必要がありました。

そこで、複数のスタッフが同時に作業できるように、クラウド上に画像生成AIシステムを構築しました。画像生成の方法をマニュアル化し、数十人で画像を生成できる体制を組むことにより、数万枚の画像生成を可能とするワークフローを整え画像生成を進めていきました。

6.クライアント企業・事務所確認

品質を担保・向上させるため、クライアント企業と都度連携しながら確認を進めました。例えば、提出前には、あらかじめLIFULL様とNGとする項目を決めておき、それに基づいて生成した画像を1枚ずつ社内で検品しました。

また、フィードバックいただく際には、OKとなった画像を回答いただくだけでなく、「このテーマの画像は大量生成ゆえにバリエーションの違いがわかりづらかった」「メダルをもっと見えるような画像にしたい」など具体的にNG画像となった理由を教えていただきました。

そうすることで、目指したい画像イメージの認識を合わせることができ、次の画像生成時にそのイメージに近づくよう調整を加えることができました。どうしてもイメージしたような画像が生成できないテーマは、画像イメージを変更したり、テーマ自体を生成対象から外すなど、LIFULL様と都度対応方法を相談しながら進行しました。

さらに、確認頻度も、最初は3,000枚単位でしたが1,000枚単位に方針を変え、フィードバックいただく頻度を増やすことで、軌道修正しやすい制作環境を整えていきました。このようにLIFULL様とワンチームとなり、確認&フィードバックと画像生成のステップを繰り返し、クオリティを上げながら納品できるよう努めました。

注意すべきポイント

1.権利

画像生成AIではモデルデータのライセンスは商用利用ができるものだったとしていても、生成される画像にロゴマークなど他者の著作物が含まれる可能性があり、著作権などへの配慮は画像を使用する側が責任を持つ必要があるため注意が必要です。

今回のプロジェクトでは、生成した画像をそのまま使用するのではなく、必ず目視で人間がチェックする検証フローを導入し他者の権利に抵触しないよう配慮しました。

2.クオリティ

SNSやブログ記事などで、画像生成AIを使えば簡単にクオリティの高い画像が作れるような情報を目にすることがあります。しかし、今の画像生成AIは、人間の身体的構造や文化を理解しているわけではないため、イメージする画像を容易に作れる訳ではありません。

例えば、物を持つポーズを画像生成AIに指示した場合、手や指が欠損してしまったり、体全体が入るような引きの構図を指定した場合、手足など一部が欠けることがあります。また、テヘペロというポーズを指示しても、画像生成AIは「テヘペロ」という言葉を理解できず、上手く生成できません。

そのため、実際に画像生成AIを活用する際は、人間がイメージする画像を簡単に生成できないことや苦手とする点を理解し、指示の方法や使い方を試行錯誤しながら進めていく必要があります。

まとめ

画像生成AIを活用し、企業が伝えたいメッセージをユーザーにより分かりやすく伝えるために、画像で何をどう表現すべきかを企画する「プランニング力」。LIFULL様・事務所とワンチームとなり、都度連携し共通認識を持ちながら進行する「プロデュース力」。画像生成AIの特徴を理解しその知見をメンバー全員で共有しながら、品質を担保し大量生成できる制作環境を構築する「テクニカル力」。

このようにさまざまな職種の力を発揮し、前代未聞のこの画像生成AIを活用したSNS企画による施策を公開・成功へと導きました。

今後のAI活用

今回の画像生成AIの他にも、リアルタイムの画像生成、SNSの縦長動画とも親和性の高い動画生成AI、大規模言語モデルAI(ChatGPTなど)を使った対話システムなど、さまざまなAIをプロモーションなどに活用できないか研究・開発を行っています。

また世の中では、画像の生成だけでなく、テキストや音声など、種類の異なる複数の情報を総合的に処理できるマルチモーダルAIが誕生したり、ヒトのように想定外の事象に対しても幅広い推論が行える汎用人工知能(AGI)という言葉も聞くようになりました。

これらのテクノロジーは、今まで不可能だったことを実現したり、ヒトだけでは思いつかない表現に気づいたりと、クリエイティビティの可能性を広げるものであると考えます。

博報堂アイ・スタジオは今後も、このようなAIとヒトとの相互作用による可能性を追い続け、新しいプランニングとプロデュースへの挑戦をしていきます。

AI活用施策についてご興味あれば、ぜひお問い合わせください。

執筆者
しなきゃ、なんてない。AI制作チーム
クリエイティブディレクター、デザイナー、エンジニア、プランナー、ディレクター、法務、事務局など、多岐に渡る職種を集めた専門チーム。

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