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なぜ今ヘッドレスCMSなのか?WordPressとの違いは? ヘッドレスCMSのメリット・デメリット

鈴木 利弥(フロントエンドエンジニア / テクニカルディレクター)
2025-12-19
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オウンドメディアの価値を、本当に引き出せていますか?

昨今、ユーザーのプライバシー保護の観点から、従来リターゲティング広告などに使用されていたサードパーティクッキーの規制が強化されています。

これにより、外部のデータに頼ったマーケティング施策が難しくなるなか、企業が主体的に顧客や見込み客のデータを収集し、活用できるオウンドメディアの重要性が再認識されています。

しかし、オウンドメディアを運用しているものの、Webサイトの情報を更新するという役割だけに留まっている場合も多いです。

オウンドメディアで得た貴重なデータを、MA(マーケティングオートメーション)ツールやCRM(顧客管理システム)とシームレスに連携させたり、Webサイト以外のチャネル(例えばスマートフォンアプリなど)で活用したりすることに、課題を感じているケースは少なくありません。

この記事では、これまで数多くのWebサイト構築で、複数のCMSを導入してきたテクニカルディレクターである私が、こうした課題を解決し、オウンドメディアの価値を最大化するための選択肢として、近年注目を集めるヘッドレスCMSについて、そのメリットとデメリットを詳しく解説いたします。

オウンドメディア運用の新たな壁

オウンドメディアをデータ活用のハブとして機能させようとするとき、多くの企業が2つの壁に直面します。

課題1:多様化するデジタルタッチポイント

第一の壁は、ユーザーとの接点(タッチポイント)の多様化です。

かつてオウンドメディアといえば、ほぼWebサイトを指していました。しかし現在、企業が顧客と接点を持つデジタルチャネルは、Webサイト以外にもスマートフォンアプリ、SNS、デジタルサイネージ、さらにはスマートスピーカーなど、急速に多様化・増加しています。

これらのチャネル(メディア)ごとにコンテンツを個別に作成・管理していては、運用負荷が増大するばかりか、一貫したブランド体験を提供することも難しくなります。オウンドメディアをハブとするには、これら複数のチャネルへ横断的にコンテンツを配信・管理できる仕組みが必要です。

課題2:従来型CMSの限界

第二の壁が、従来型CMSの構造的な限界です。

WordPress(ワードプレス)やMovable Type(ムーバブルタイプ)に代表される従来型のCMSは、そもそもWebサイトを構築し、ページとして表示するために設計されています。

もちろん、これらのCMSもプラグイン(拡張機能)などを使えば、ある程度の外部連携は可能です。しかし、Webサイト以外のチャネルと、コンテンツやデータをシームレスに、かつ柔軟に連携させることは構造的に得意ではありません。

その結果、チャネルごとにコンテンツ管理が分断され、データも分散してしまい、オウンドメディアをハブとして機能させることが困難になっているのです。

ヘッドレスCMSとは? なぜ注目されるのか?

オウンドメディア運用の新たな壁を乗り越える鍵として注目されているのが、ヘッドレスCMSです。

CMSの基本

CMSはContents Management Systemの略です。一般的には、Webサイトの記事作成、編集、公開などを専門知識がなくても簡単に行えるよう、一元管理するシステムを指します。

参考記事:プロが本音で解説するCMS比較。目的別のおすすめ10選と選び方のコツ

ヘッドレスCMSの定義

従来のCMS(WordPressなど)は、コンテンツ管理機能(バックエンド)とコンテンツ表示機能(フロントエンド)の両方を併せ持っています。
それに対し、ヘッドレスCMSは、コンテンツ表示機能(フロントエンド)を持ちません。

ヘッドレスCMSはコンテンツ管理機能に特化しており、管理されているコンテンツやデータは、「API(エーピーアイ)※」を通じて、さまざまなチャネル(Webサイト、アプリなど)に提供されます。

※API(Application Programming Interface)とは、異なるソフトウェアやサービスが、お互いに情報をやり取りするための窓口のような仕組みです。

表示機能を持たないことが、逆にどのチャネルに対しても柔軟にコンテンツを提供できるという最大の強みを生み出しているのです。

従来のCMSとヘッドレスCMSの比較

項目

ヘッドレス CMS

従来のCMS

代表的なサービス

Contentful / microCMS

Wordpress / MovableType

コンテンツ登録・管理機能

コンテンツ表示機能

無 ※独自に開発が必要

CMS環境構築

不要

必要

CMS環境運用

不要

必要

セキュリティー対策

不要 ※サービス側で担保

必要

管理画面のカスタマイズ性

△〜◎
(サービスにより異なる)

サイトの拡張性

WordPress(WP)やMovableType(MT)といった従来型CMSとヘッドレスCMSを比較した際、ヘッドレスCMSには、CMS環境の構築や運用、セキュリティー対策が不要といった、導入企業にとって分かりやすい長所があります。さらに、一見すると機能が少ないデメリットに思えるコンテンツ表示機能(フロントエンド)を持たない点も、表示部分の自由度を高めるという点で、大きなメリットとなります。次の段落で、ヘッドレスCMSのメリットを詳しく説明します。


ヘッドレスCMSがオウンドメディアの価値を最大化する3つの理由

ヘッドレスCMSは、オウンドメディアをデータ活用のハブとして進化させるために、従来型CMSにはない大きなメリットがあります。 特に重要な3つの理由を解説します。

CMSサーバーの管理コストが比較的低い

従来型CMSでは、自社でサーバーを用意しCMSをインストール・運用する必要がありますが、ヘッドレスCMSの多くはSaaS(Software as a Service)形式で提供されます。そのため、自社でのサーバー準備は不要です。サーバーのメンテナンスやセキュリティ対策といった運用はサービス提供者側が担うため、導入企業側のCMSサーバー運用作業が大幅に軽減され、結果として運用コストの低減につながります。

サイトの表示部分のクオリティが追求しやすい

従来型CMSは表示機能を持つため、フロントエンド(見た目部分) を構築する際に、そのCMS独自のテンプレートやルールに制約を受けがちです。ヘッドレスCMSには表示機能がないため、デザインやパフォーマンスを最大限に追求できる最新の技術スタックを選び、CMSのルールに縛られず見た目部分を自由に構築できます。これにより、要件に合わせた柔軟かつ最適な設計が可能となり、表示部分のユーザー体験(UX)やクオリティーを追求しやすくなります。

多様なシステム連携が可能

従来型CMSが基本的にWebサイト構築に特化しているのに対し、ヘッドレスCMSはコンテンツをAPI経由で提供する仕組みが核となっています。このAPIを活用することで、CMSに登録されたコンテンツをWebサイトだけでなく、モバイルアプリ、デジタルサイネージ、さらには各種マーケティングオートメーション(MA)ツールやCRMシステムなど、多様な外部サービスと柔軟に連携し、活用範囲を大きく広げることが可能です。

要件に合わせた柔軟かつ最適な設計が可能となり、オウンドメディアのブランドイメージを体現する高いクオリティーのデザインや、優れたユーザー体験(UX)を追求しやすくなるのです。

参考記事:渋谷区と作る新しいデジタル行政の形

導入前に知っておくべきデメリット

多くのメリットを持つヘッドレスCMSですが、導入を検討する上で知っておくべきデメリットもあります。

最大のデメリットは、Webサイト構築における開発難易度の高さと工数の増加です。

従来型CMSであれば、CMSをインストールし、独自のルール(テンプレート)に従うことで、比較的迅速にWebサイトを立ち上げることが可能です。 一方でヘッドレスCMSは、前述のとおりコンテンツ表示機能(フロントエンド)自体を持たないため、この表示部分を一から別途開発する必要があります。

この開発範囲に伴い、フロントエンド(見た目部分)とバックエンド(CMS)両方の設計・構築が必要になるため、柔軟性や多機能性といったメリットと引き換えに、高度な開発スキルとより多くの工数が必要になります。

また、初期の開発コストは従来型CMSよりも増加する傾向があります。 ただし、サーバー運用コストや、将来的な拡張・連携にかかる改修費など、中長期的なトータルのコストパフォーマンスで比較検討することが重要です。

サードパーティクッキー規制時代を乗り越えるための戦略的投資

サードパーティクッキー規制への対応は、デジタルマーケティングを行う企業にとっての課題です。オウンドメディアは単なる情報発信の場ではなく、顧客との関係を深め、データを蓄積・活用する役割を担う必要があります。

ヘッドレスCMSは、導入時に表示部分の開発工数がかかるというハードルこそあるものの、圧倒的な連携力や将来的な拡張性、サーバー管理の効率化といった、大きなメリットを提供します。

オウンドメディアの価値を最大化し、未来のマーケティング基盤を構築するための戦略的投資として、ヘッドレスCMSの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

最後に

高い構築難易度に見合う、大きなメリットを持つヘッドレスCMS。博報堂アイ・スタジオでは、業界に先駆けて2019年からヘッドレスCMSの導入に取り組んでおり、自社のコーポレートサイトや専門商社などへの豊富な導入実績があります。この積み重ねたノウハウをもとに、現在も大手専門商社や自治体のWebサイトへの導入プロジェクトを進めています。オウンドメディア構築のご相談も、もちろん承ります。

「CMSの基礎から知りたい」「具体的にどう進めればいいか分からない」という方もご安心ください。弊社のテクニカルディレクターが、要件のヒアリングから設計、導入、運用まで一気通貫で伴走いたします。まずはお気軽にご相談ください。

執筆者
鈴木 利弥(フロントエンドエンジニア / テクニカルディレクター)
2015年 博報堂アイ・スタジオ入社。
入社以来フロントエンドエンジニアとしてブランドの世界観を拡張するようなウェブサイトを制作。近年はテクニカルディレクターとして、AWSやヘッドレスCMSを活用し、モダンな大規模CMSサイトの構築を行なっている。