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オフィス移転プロジェクト前編〜ゆるやかなオフィス回帰を見据えて〜

板倉 美和(アートディレクター/インタラクティブディレクター)
2023-09-08
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2023年4月に博報堂アイ・スタジオ(以下、アイスタ)のオフィスを移転しました。
移転に関するプロジェクトのメンバーは社長含む経営陣、総務、数名の現場メンバーです。
2000年に創立して以来、実に5度目の移転。「会社ってそんなに引っ越すの?」と思いながらその5回の移転を全て見てきましたが、今回の移転はコロナ禍で生まれた働き方の概念や、オフィスの在り方について、世の中の変化とも相まったものとなりました。

コロナ終焉のタイミングにて

まず移転理由から。これは極めて単純で、「ビルが取り壊されるから」という身も蓋もない理由です。

有楽町の駅前、改札から徒歩30歩という超好立地のビルでしたので、ここよりいい場所じゃなくなる可能性について勝手にがっかりしていましたが、なんと移転先は僅か2件隣のビル。アクセスが良好で活気のあるエリアにオフィスがあるというのはやはり良いものです。今回の移転で丸の内という響きの良い住所も手に入れました。

移転先が確定し、具体的な計画に進んだのは2022年夏頃でしょうか。コロナは依然増えたり減ったりしていましたが恐怖心は完全に薄れ、規制も緩やかになってきていました。テレワークも完全に定着し、様々な運用もスムーズになっていたと思います。

一方でテレワークの弊害も話題になっていて、新しい思想が早くも一周まわった感があり、オフィスの在り方については「その後」を見据えてよく検討する必要がありました。

テレワークについて、余談ですが

少し話が逸れますが、私には2人の子どもがおりまして。

上の子が産まれたのは10年以上前、その頃はまだまだ働き方に自由度もなく、育休後もざっくりとした「時短」という枠以外に選択肢もありませんでした。これはそういう時代だったというだけで、他の企業もまだ環境や制度も便利な技術も整っていなかったところが多かったと思います。

そんな中、希望通り現場に復帰させてもらい仕事をしていたのですが、早めの時間に退社することに気が引けて、常にモヤモヤ。。。気軽に連絡を取れるチャットツールもファイル共有もなかったので、自宅に仕事を持ち帰ってもやりとりに手間がかかってしまう。やたらと「ママさんパワー」的な言われ方をすることも鬱陶しく(ほんとすみません)、悪目立ちしているようで居た堪れない気持ちでした。

私なりに神経質な時期がありながらも世の中の思想はどんどん進化し、新しいツールや制度が導入されて、時代が変わったなあと思っていた矢先の、コロナ。コロナ以前からアイスタではテレワーク環境を整え試験的に導入していたのですが、まだまだ「事情のある人向け」でした。それが、一気に全体化。もちろん業務上出社せざる得なかった方達には感謝の念しかありません。

でも、テレワークしているのが自分だけじゃないという安堵感は、半端じゃなかったです。そしてテレワークが恒常的な制度として残ることで初めて、落ち着いた気持ちで仕事に向かうことができました。事情があるのは子どもを持つ人だけではないですし、逆に小さい子どもがいてテレワークは地獄という面もあるので、状況に合わせて誰もが選択肢を持てるということは、素直に安心感をおぼえます。

一方で仕事環境やライフステージに全く影響されない人もいますし、まあ人それぞれ。その、それぞれがアリだな、と思うようになったのは、世の中の強烈な風潮もありますが、かつては私を含め若者ばかりだったアイスタも、それなりに成熟して許容できるようになったということではないでしょうか。

余白のあるベストプレイス

というわけで、コロナ明けで更なる変化のタイミングとなった移転、ようやく本題に入ります。

グループ全体ではもとより「ベストプレイス」という考えが掲げられていました。各々がパフォーマンスを発揮できる最適な場所、家か会社かではなく、スタイルを委ねられている気がします。大人ですね。

確かに仕事場は作業机と打ち合わせ部屋だけではなく、テレカンや集中スペースのニーズが現れました。そして打ち合わせも、機密性の高い内容からラフな雰囲気のものなど、様々です。であれば、オフィスの中にその時々のベストプレイスがあるといいよね、という方向がメンバーの中でまず出来上がりました。

しかも会社が細かく設定しきるのではなく、使い方に余白を残したほうが面白そう。作り込みすぎず、使う人が主体となれる場所であれば、想定していなかったベストプレイスが生まれるかもしれません。ゆるやかなオフィス回帰を見据え、自分なりの居場所が見つかる、おおらかな空間を目指せると良いなと思いました。

フリーアドレスに配慮を

全体スペースで大部分を占めることになる執務エリアについては、今回一番大きな運用の変化がありました。テレワークか否か論争も陳腐化してきた頃合いで、フリーアドレス上等、ツールモンスター化が叫ばれる中、どこを落とし所にしていくか。

ひとつ、比較的初期の段階で決まっていたのは、執務机について。完全なフリーアドレスではなく、大きな部署ごとのエリアを決めて自由に座る、グループアドレスと呼ぶ形式を採用しました。

組織がまとまっていることでの効率の良さと、どこにいるのか見当がつくので高額なツール導入の必要がないというメリットがあります。そして新しく入社した方が居場所に困らない。基準があることでコミュニケーションにも運用にも配慮ができます。

固定席をやめたのは、テレワーク制度の継続で100%座席が埋まらないであろう予測と、毎年の組織変更による環境整備の負荷を抑えるためです。ちなみに総務の方々が一定期間出社人数を調査し、部署ごとの平均出社人数を割り出してエリア設定を考えてくださいました。

いよいよ間取りと内装へ

そして実際のビルを内見しに行ったわけですが、目に飛び込んできたのは、だだっ広い空間にやたらと目につく柱。とにかく柱の主張がすごい。ブラインドが降りて薄暗く、天井は低く、広いのに圧迫感のある空間でした。

この時点ではデザインも間取りも我々素人はノープラン。

デザインと設計は今回はいくつかのデザイン会社さんとお会いさせていただき、FLOOATさんにお願いすることに決めました。どちらも素晴らしい実績をお持ちで本当に悩ましかったのですが、以前のオフィスのテイストとは少し趣向の違う雰囲気というところで決めさせていただきました。

どんなオフィスにしていくか、まだまだフワッとしていた我々が、唯一柱についてだけ言及し「柱をなんとかしたい」と柱を隠すアイデアだけ先走って困惑させたのは良い思い出です。

さてここから模索の日々が始まります。

後編に続く。

執筆者
板倉 美和(アートディレクター/インタラクティブディレクター)
デザイナーとして設立間もないアイ・スタジオに入社した最古参の1人。在籍中にライフステージが刻々と変化していく中、アートディレクターとマネジメント業務に精を出す母。博報堂のスタートアップ支援プログラムにより、新会社を設立し、取締役として新規事業サービスの立ち上げを経験した。

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