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ミーハー野郎が事業開発支援に辿り着いた。プロデューサーの13年目の答え

今井 康之(プロデューサー / UXデザイナー)
2023-04-12
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《 ピープル 》は 幅広い業務で活躍するメンバーに、仕事の向き合い方からプライベートまでじっくり話を聞くコーナーです。

広告に憧れて、苦悩して、気付いたこと

入社して13年、顧客体験を切り口としたコンサルティングを行う部署の立ち上げや、アルスエレクトロニカへの出展など、幅広くプロジェクトを仕掛けていると伺いました。これまでのキャリアについて教えてください。

「クライアントの新規事業やサービスデザイン、ブランディングなどの支援を行う、デジタル・サービス・デザインユニットを立ち上げて、丸3年になります。それまではスマートフォンの普及をはじめとした、生活者のデジタル環境の大きな変化の中で、さまざまなデジタルクリエイティブの制作をプロデューサーという立場で担当してきました。

実は昔はただの広告ミーハー野郎だったんです。学生の頃にかっこいい広告作品見て、宣伝会議のコピーライター養成講座に通ったり。単純にカンヌの広告ってすごいな、とか。広告というよりも、こういう作品を作る人がかっこいいな、と作り手や講師陣が輝いて見えました。大学自体は文理融合の専攻で、認知科学系のことをやっていて、情報処理学会の論文を読んだり、口コミの研究や言語解析をしていたんで、広告と全然関係ないんですけど…就活では広告業界しか受けませんでした。その中で、一番最初に内定が出たのがアイスタでした。」

そこからどのようなことをしていましたか?

「入社当時はアカウント職で、企業や商品をプロモーションするウェブサイト構築にディレクターとして関わっていました。それから入社3年目で待望だったカンヌに行かせてもらって。刺激的で面白かった反面、現地で『キミは何をしに来たの?』って聞かれた時、心をえぐられた気分でした。好きなだけではだめなんだなって。自分は受賞はおろかエントリーさえしていないこともあり、消化不良のまま帰国しました。

その煮え切らない気持ちを胸に、翌年に自腹でもう一度カンヌに行ってみたんです。そこで、あれ、そもそも、このお祭りって何のためにあるんだろう?そんなに、賞って大事なんだっけ?と。カンヌを知れば知るほどに、かつて輝いて見えていた世界を引いて見るようになって、ミーハーな熱が、覚めてく感覚がありました。

元々やりたかったことの本質は、クライアントの課題にしっかり向き合うとか、課題解決なんじゃないかと。ちょうどそのころアドテクとか、デジタルマーケティングが普及し始めたころだったので、どのように貢献できたのか如実に数字で分かるようになってきていました。これだ!と思ってKPIを設計し効果検証を繰り返すようなプロジェクトを3年ほど手がけるようになりました。」

社会へ問いを立てる、アートとの出会い

その後、今のセクションの立ち上げにも関連する出来事があったとか。

「はい。博報堂のBID(ブランド・イノベーションデザイン) https://h-bid.jp/ に関わる機会がありました。新規事業の開発や、ブランディング、自治体の仕事など、これまでとは違った仕事をたくさん目にして、その中のひとつで、“アルスエレクトロニカ(Ars Electronica)”に携わることができたことで、人生観が変わったと言っても大袈裟ではないかもしれません。」

具体的にはどのようなことがありましたか?

「博報堂とアルスエレクトロニカは2014年に協働を開始していて、未来社会を創り出すアイデアを共創し、社会実装を行う取り組みを行っています。毎年オーストリアで行われるフェスティバルがあり、まずそこに現地視察に行って、翌年アイスタも関わって現地で展示をすることになりました。

一見するとメディアートの祭典なのですが、Art, Technology, Societyをテーマとして掲げ、アーティストの力を借りながら未来の社会に対する示唆を発しています。現地での展示を通して、よい未来をつくりだしていこうとする人たちの情熱に触れて、自分は未来に対し何ができるんだろうと思うようになりました。

その時ひとつ気付いたことがありました。アルスエレクトロニカの作品やプロジェクトで発せられた社会への問いが、数年後ビジネスの世界で課題解決に向けて動いていくことがあって。先進的な問いを発するアルスエレクトロニカ、解決策としてのクリエイティブが集まるカンヌ、というように捉えると、アートとビジネスが両輪で動いてるんだなと、一歩引いて見ていたカンヌの捉え方も少し違って見えてきました。」

最近うれしかったことはありますか?

「コンセプト立案からサービス設計、ブランディングでお手伝いをさせていただいた、リノベーションサービスの旗艦店がオープンしたことです。オープニングセレモニーに招待されて祝辞を依頼いただいたのですが、紆余曲折しながらも、メンバーと濃い時間を過ごしながらつくりあげていったプロジェクトが世に出ていく瞬間に立ち会えてうれしかったです。

デジタルのものづくりの自負を持って、実現したい仕事のつくり方

ご自身が今、チャレンジしたいことは?

「僕は昔から、何者かになりたかったんです。でも、なかなか、自分が何ができる人間なのかと手応えを持てずにいました。最近ようやく、自分の強みが、デジタルスクリーンをタッチポイントとした顧客体験に高い解像度を持ちながら、サービスや事業を実現すること、前に進める力になれることだと思えるようになりました。

新規事業の半分は世に出ることさえない、と言われているんです。想いはあっても、実現することができないと、その事業を通してつくられるはずだった、未来がやってこないってことですよね。

実現したい想いがある人、その人にしか見えないビジョンがある人、でもそのほとんどが実現することはないという現実の中、自分ひとりが成せることより、いろんな人の想いを実現することに加担したい。今までやってきたデジタルのものづくりの自負を持って、未来を見届けていきたいです。」

今後のチームとしての展望は?

「僕、アイスタの人にすごく力があって、可能性があると思っていて。経産省が示している”高度デザイン人材” というのがあるのですが、そのポテンシャルがある人がいっぱいいます。みんなに気付かせる…というとなんだか偉そうでイヤなんですけど。こんな仕事があるんだ、ってケースを作って巻き込んで、力のある人の可能性をより広げていけるといいなと。

デザイナーがデザインを納品する、エンジニアがソースコード納品する、というだけではなくて、そうした人が持っているものの見方やクリエイティブへの情熱を、新しいサービスやブランドを生み出そうとする現場で、「納品」するのではなく、時間を「コミット」していく、そんなタレントドリブンな仕事のパターンをつくっていきたいです。

そういう実績をたくさんつくっていければ今、何をしたらいいか分からない若いメンバーに対しても、こんな仕事あるんだ!ってちょっとわくわくしてもらえるかもしれないし、大袈裟ですけど新しいキャリアパスみたいなものにもつながっていくといいですね。それに、その方がきっと制作プロダクションとしても付加価値が高まるとも思います。プロダクションという領域に閉じず、領域を越境していくようなチームになりたい。自分たちにしかできないことを、社会にインパクトや未来をつくりだすような実感を得られる仕事をしていきたいです。」

プライベートでリラックスできる時間はありますか?

「酒を飲みながら料理する時間かな。音楽聴きながら、旬の食材をうまく活かすのが好きで。料理する時、ちょっとした待ち時間があるじゃないですか。その時間で、料理に使うワインとかを飲む時が癒しです。最近はこの前バルで食べたのを再現しようと思って鰯の酢漬けをつくったり。最近は豚のリエットを作りました。」

お菓子もつくります(ファーブルトン)/わりと火入れのうまくいったグラム300円の肉のステーキ/ハマグリのオイル漬け

個人的にハマっていることはありますか?

「Notionが面白いです。個人で使うよりも、チームで使う方が効果が何倍にもなるから、いいですよ。プロジェクト管理ツールは他にもあるけど、ものによっては検索エンジンで検索するより、Notionで検索する方が役に立っています。たとえば、ワークショップのフレームワークのような業務ナレッジは100を超えますし、チームで買っている書籍とその書評のようなインスピレーションに関わるものも無数に蓄積されていて、案件進捗も一覧できます。

新しい事業やサービス、ブランドが社会にどんなインパクトをもたらすのか、今という時代への見立て、未来への見立て、この自分なりの見立てのようなものが大事だと思うんですが、そうした見立てを形成するときに、業務スキルとは関係ない人文や自然科学のトピックなんかもインプットになるので…チームの好奇心のアンテナを共有する意味でもおすすめです!」


取材・執筆:田中 朝子
撮影:足守 新吾

出演者
今井 康之(プロデューサー / UXデザイナー)
2010年博報堂アイ・スタジオ入社、スマートフォンの普及をはじめとした生活者のデジタル環境の大きな変化の中で、企業や商品のウェブサイト・アプリ構築にプロデューサーとして多数関与。近年では制作領域でのプロデューサーとしての経験を活かし、ユーザー体験を軸として、新規事業開発やブランド構築など、プロデューサー・UXデザイナーとして支援を行っている。

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