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オフィス移転プロジェクト後編〜デザインとインテリア〜
板倉 美和(アートディレクター/インタラクティブディレクター)
2023-10-27
後編では、具体的なオフィスデザインのお話を。
前編はこちら
オフィス移転プロジェクト前編〜ゆるやかなオフィス回帰を見据えて〜

ヘルシーでシックなトンマナに

今回、新オフィスで大事にしたかったことに、社員の健康と居心地の良さ、というテーマがありました。

普段、非常にスピーディな業界にいるので、オフィスは落ち着きとヘルシーさのあるムードがよかろうと。必須なのは明るくて疲れない空間であること。

また、我々様々なクライアントのお仕事があり、様々なテイストや領域に関わるので、オフィスのデザインはニュートラルな印象が良いと思っていました。その方が大人っぽいですし、断然今っぽくもある。

FLOOATさんの持ち味であるナチュラルでシックなテイストで、全体を柔らかくまとめていただきつつ、ディテールは色々とこだわりました。

まず、壁の色。かなり微妙な色合いのベージュで塗られています。朝でも壁が冷たく見えず、陽がかげってもグレーにならず、蛍光灯で白浮きもしないという絶妙な色合いにしてくださいました。ニュアンスのある粋な色味です。

実は天井パネルも同じ色で塗っています。

今回、一つ残念だったのは、予算の都合で一部しか天井をぶち抜けず、「the 事務所」風の天井パネルをそのまま使用するしかなかったのですが、天井も壁と同じ色で塗ることで緩和されたと思います。

執務エリアに点在する4つの「箱」

以前のオフィスは、いくつかの部署や来客スペースなど3フロアに分かれていました。

今回はせっかく全て同じフロアに収まるため、組織分断が起こらないように、できるだけオープンな状態を保ちたいという意向がありました。

とは言っても、だだっ広い空間がなんのメリハリもなく広がっているのはあり得ない。

FLOOATさんのご提案は、「箱」の設置。

広い執務エリアにランダムに4つ点在する箱型の会議室です。

上にひさしが少しだけつき出ており、少し独立した木の「箱」が建っているというイメージです。それぞれ「RED」「YELLOW」「GREEN」「RUST(レンガ色系)」とテーマカラーを決め、コーディネートしています。

ここのカラーコーディネートも稚拙にならないよう、単純な1トーンを避け、深みのある色で抜き差ししながら組み合わせました。この箱型会議室はガラス張りのため、外から見てもカラーテーマが分かります。

グループアドレスで社員の位置が曖昧になりましたが、これはなかなか目印になって良いようです。さらに周辺の椅子に使用しているファブリックも同系色にしてあるので、なんとなく色でエリアができています。

ちなみに、そのファブリックですが、FLOOATさんがヨーロッパから直接仕入れてくるので、なかなかない非常にシックな色味のファブリックから選ぶことができました。

カラー会議室の周辺以外にも、2~6人で座れるファミレスブースがたくさんできたのですが、それらで使用しているファブリックも吟味しました。あまり目立たないかもしれないですが、ここが違うと結構チャチに見えてしまったと思います。

全方位のベンチとデザインスツール

三方を窓で囲われた執務エリア、その窓辺は端から端までぐるーっとひたすらに作り付けの木のベンチになっています。これが広い空間につながりを持たせています。

執務デスクは減らしましたが、座るところはいくらでもある、というわけです。

「寝るやつがいっぱいいそう」という意見も出ましたが、木なら硬いから大丈夫だろうということで採用になりました。

このベンチの向かいに様々なスツールを点在させているのですが、これ、1つも同じものはありません。ちょっとしたアクセントとして全部違うものを調達していただきました。

個人的に好きなのはNormann Copenhagenのネジみたいな形の大理石柄のものです。他にもVitra、MATTIAZZI、Nikariなど6ブランドから集められています。

2つのニワ(庭)とこだわりインテリア

今どきのオフィスとして欠かせないのは、社員のためのリラクゼーションスペース。

以前にも「ナカニワ」というスペースがありましたが、今回は執務エリアの真ん中に「ナカニワ」、そしてその他にさらに4倍くらいの広さの「デカニワ」というエリアが誕生しました。

デカニワは広々としたキッチンがあり、天井に吊るされているのは「ニワ」の名に恥じない巨木が。これ、木の幹は本物で、枝葉はフェイクだそうです。よくできてる。

多くの社員がコンセプトやロジックを考え込んでしまうので、今回あまりコンセプチュアルなものはあえて避けていましたが、唯一ちょっとしたシンボルとなっています。

そしてこのデカニワのチェアが良いです。

まず入ってすぐのビビッドなバイオレットブルーはHAYのPETIT STANDARD。奥には同じシリーズのボルドーも。

学校の椅子を洗練させたようなフォルムで、色がおしゃれ。

右側に並んでいる白いロープを使ったチェアは、Artekの、その名も「ロープチェア」。どうやら安藤忠雄が手がけたパリの新しい美術館で採用されているらしいですよ。非常にシンプルですが計算されていて、ひとくせある感じがクリエイティブでいいなと思いました。見た目に反して座り心地がいいです。

ちなみにその壁に取り付けられたカーブを描いたライトは、CIBONEで一目惚れしましたが、ベルギーのデザイナーのもので、知る人ぞ知る的なやつとか。

もう一つの「ナカニワ」の照明はVertigoという結構有名なやつ。ここは天井も高いので、贅沢に大小2個使いです。

他にも会議室など、照明は割とクセ強を取り入れ、アクセントにしています。

そんなこんな、インテリアは地味に名品を取り入れてます。私も受け売りですけど。

でもこの「実はお目が高いもの」というのはちょっと自慢にもなりますし、いい物なのでやはり視覚的にも映りが良く、気分がいいですね。

来客エリアの美しい機能

一方、来客エリアの方で、とても気に入っている美しいディテールがあるんです。

来客エリアは白を基調に、ステンレスやガラス、木などの異素材で構成されています。会議室の壁はやはりクリアなガラスなのですが、来客会議室なので場合によっては中を見られたくないこともあります。

なので内側に透かし素材の黒のカーテンをつけているのですが、このドレープが美しい。

カーテンを閉めていても開けていても完璧なドレープ形状で、とてもムードがあるのです。中の照明との相性もバッチリ。

最初は、目隠しにカーテンなんて、、、、と思いましたが、FLOOATさんのオフィスでも使われていて、美しさに即決しました。

中はよく見えないけど人がいることは分かる、きちんと機能性があってどんな状態でも美しいという理想系です。

移転してみて。

もはや移転して数ヶ月が経ち、すっかり慣れましたが、施工が終わった当初は「図面より広い」と慄いていました。広いから良かった、というよりも、なんだか思ったより広々していて物足りない気がしてしまい、余白ありすぎ、、、

ですが、社員の稼働が始まってみると、人の行き来が程良くハマり、ちゃんと余白が活用されていって充実した空間になっています。

ゆったりとした通路やユーティリティスペースで、すれ違いざまに立ち話したり、高めのカウンターにPCを置きながらサクッと確認したり、気負いなく声を掛け合えるようになった気がします。

もうコロナ前のこともコロナ禍のことも忘れましたが、そんなことよりも、新しいオフィスを楽しみ、どんどん素敵に活用して、自然で快活な働き方を見出していけばいい。

空間にも、社員の働き方にも、余白があった方が工夫のしがいがありますよね。

執筆者
板倉 美和(アートディレクター/インタラクティブディレクター)
デザイナーとして設立間もないアイ・スタジオに入社した最古参の1人。在籍中にライフステージが刻々と変化していく中、アートディレクターとマネジメント業務に精を出す母。博報堂のスタートアップ支援プログラムにより、新会社を設立し、取締役として新規事業サービスの立ち上げを経験した。
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