ー これまでの経歴を教えてください。
「博報堂アイ・スタジオ(以下アイスタ)へ総合職で新卒入社し、ディレクターからキャリアをスタートしました。その後、博報堂に営業兼プロデューサーとして常駐したり、ストラテジックプランナー(以下ストプラ)としての研修出向したり、戻ってきた後は副部長を担ったりしたのですが、アイスタ10年目を前にして転職をしました。
転職先はゲーム会社で、6年間マーケティングマネージャーとして勤めました。紆余曲折あり、今またアイスタに戻ってきまして、社会人歴は16年目になります。」
ー いまはどんなお仕事をされていますか?
「ビジネスディビジョンの部門長としてマネジメントをしています。今期から新しい組織になったので、4-5月はその地盤固めとして体制を整え、どう戦っていくかという方針・戦略を練っていました。
それが整ってきたので、部門で担当するクライアントへの向き合い方を検討するとともに、現場のメンバーがどういった経験や成長をしてキャリアをつくっていくかに向き合っています。
経営企画室にも兼務しているので、外と中の両面からアイスタをより良い会社にすべく奮闘しています。」
進む道を創る。経験を還元する。
ー 仕事におけるマイルールはありますか?
「自分の信念にも人にも嘘をつかないことですかね。仕事をしているとどうしても調子のいい返事をしたり、ごまかしたりしたい瞬間もあると思うんです。でもそれが結局後から自分の首を絞めると思っていて。
それだったら、別に怒られてもいいから、そこで嘘をつかないで正しいと思ったこととか、本当に思っていることを言う。これはずっと大事にしている気がします。だから自分のやりたいという気持ちにも嘘はつかないですね。
昔からやりたいことやらせてくれって平林さん(当時のアイスタ社長)や経営メンバーに直談判もしてましたし……。自分のやりたいことやキャリアプランがいかに会社にとって有益か、みたいなことをワードやパワポにまとめて、交渉してました(笑)
もちろん、やるべきことは100%やった上で、というのが大前提だし、ただやりたいことをやらせてもらうだけではなくて、そこでの学びや経験をちゃんと体系化して還元することも大事にしています。」

ー 具体的に、得た学びや経験をどんな風に還元しましたか?
「博報堂のストプラとして研修出向して戻ってきた後に、アイスタでマーケティングチームをつくりました。
今では当たり前の話なんですけど、当時はアイスタの中でマーケティングリサーチを行う、ってことがほとんどなかったんです。なので仮説立ての検証や実情を把握するための意識調査をして、そこにアクチュアルのデータをかけあわせて見てみる。みたいなことを組織でできるようにしました。
その結果、それまで以上にロジックやストーリーを強化しながらクリエイティブにつなげられるようになったんじゃないかなと。あとはひたすらクライアントとワークショップもやってましたね。
アウトプットやクリエイティブにつなぐためのプランニング・プロジェクトデザインができるのがアイスタだっていうブランディングもできたし、それが今のアイスタにも根づいているんじゃないかと思うと、それなりに価値があったことだったんじゃないかと勝手に思ってます。
今も、事業会社にいってきたことは、他のメンバーにはあんまりない経験だと思うので、その視点も活かしたいと考えています。」
売る覚悟。会社を動かす“意志”。
ー 事業会社の経験の中で、どんな視点を得ましたか?
「“物を売る”ということに対する覚悟、強い責任みたいなものがすごくつきましたね。SNSの投稿を1件する際にも『これで本当にこのゲームが売れるのか?』という問いかけを自分自身にするし、すごく考えて仕事するようになりました。
もちろん、SNSの投稿が直接的に売りにつながる施策じゃない場合もあるのですが、最終的に自分の商品・ゲームを手に取ってもらえるのか、は常に強く意識していました。
アイスタにいた時からクライアントのKPIを立てたり売上目標を持ってどのくらいの人にリーチするかみたいなことはしていましたし、その責任を持っていたつもりです。ただ、その感覚値はだいぶ違う次元で、自分が全然考えられていなかったと気づきました。ビジネスとして”売らなければいけない”ということ。そんなシンプルな話に立ち返りましたね。
あとは、ゲームのマーケティングだけでなく、開発における予算設計、販売目標、人員計画、生産計画、PdM……といったマーケティング領域外の経験を積めたことは、改めてクライアントワークに立ち返った今に活かしたいとも考えています。」

ー 転職後、Uターンのきっかけになった出来事はありますか?
「まず転職した理由からになるのですが、マーケティング戦略を自身で描き、実践したいと思ったからです。
アイスタに入って最初に制作を学んだ。徐々に自分で制作物の提案書を書くようになって、制作の前には戦略が必要だと知り、戦略の作り方を学んだ。戦略の作り方を知り、マーケティングから事業まで、幅広く提案できるようになった。じゃあ、今度はそれを提案だけじゃなく、自分の事業で実践したい。
そう考えたときに、事業会社への転職をイメージし始め、せっかくなら好きな事業・サービスが良いなと思い、昔から思い入れのあるゲーム会社を選びました。
幸せなことに、ゲーム会社でも尊敬できる人たちにたくさん出会えて、今でも仲良くしてもらっていますし、思い描いていた以上に充実した日々を過ごしていました。
では、なんで戻ってきたかですが、Uターンのきっかけは、富川さん(アイスタ常務執行役員)との会話でした。
ちょうどゲーム会社での大きな仕事が一段落して、今後のキャリアとして、もう少し経営に近い場所で仕事がしたいと考えているタイミングでした。事業を動かすことから会社を動かすこと、会社をもっと良くしていくことに挑戦していきたいと考えていたんです。
そんなことを富川さんに話していたら「一緒にやろうよ」と誘ってもらって、アイスタに戻る話がトントンと進んでいきました。富川さんが持ってるビジョンや『Will』、強い意志に心を動かされたのもそうですが、単純に一緒にやろうと誘ってもらったのが嬉しかったんです。
思い返すと、昔からアイスタには『Will』を持っている人が多いように感じます。自分はこういうことをやりたいとか、成し遂げたいとか、ちょっとした野望とか個々の企みや志があって、それがモチベーションになって多方面に良い作用を生んでいる。
僕がアイスタにいた当時、そういうメンバーと一緒にアウトプットを作っていく、クライアントの課題をクリアしていくことを楽しんでいたな、ってことも思い出したんです。
また、経営に近い場所で仕事をしたいと思っていたのも、もともとアイスタのVISION2025の旗揚げメンバーをした時に、そのプロジェクトがすごく楽しかったのもあって。じゃあもう一度そのVISION2025に、当時とは違う立場で向き合ってみようかなと。
転職した後もアイスタのことは好きでしたし、今の自分のやりたいことがアイスタでできることのやりがいも大きいと思ったんです。あとはちょっとおこがましいですけど、自分の経験でアイスタに恩返しできるならと思って、戻ってきました。」
事業に伴走できる、“全領域のデザイン”力。
ー Uターンして改めて感じるアイスタの強みはなんですか?
「当時から思っていたことではありますが、『デザイン力』ですね。これは狭義ではなく広義のデザインって話だけでもなく、本質的な課題を解決するための“設計”や“企画”から、実際にそれらを“具現化”するまで含んだトータルな『デザイン力』だと考えています。
そしてこれは弱みになってしまうかもですが、パーツ的に業務に関わってしまうと僕らの力は最大限発揮できないような気もしていて。
客観的に見ても「これはいい仕事だな」と思えるのは、アイスタがクライアントの事業に伴走できているときの仕事、クライアントのパートナーとして向き合えているときだと思います。」

ー 今後のアイスタの課題はなんだと思いますか?
「課題というには抽象的かつ当たり前すぎることですけど『選ばれ続けること』でしょうか。
これまで僕らが売り物にしてきたデジタル上のアウトプットって、規模の大小あれど、今はもうクライアントの皆さんも作れると思うんです。
そうした環境のなか、アイスタに仕事をお願いしたいと思ってもらうにはどうするか。それを今一度明確にしたいと思っています。
と言うと、まるで今それがないみたいに聞こえちゃうのですが、そういうことではなく、今後もアイスタが持つ強みを研ぎ続けたいということです。今の強みはぜひアイスタのWebサイトを見てください(笑)
また、いろんな強さのなかでも、個人的には『インターフェース』にこだわりたいと思っています。
これまで僕らが主戦場としてきたWebサイトやアプリのUIだけでなく、家電やガジェット、なんだったら自動車のインパネや、飛行機のコクピットまで。
あらゆる『操作画面』を作れる会社になったら、最高にワクワクしますし、それができるヒトたちがアイスタにいると知ってもらえれば、クライアントの皆さんが仕事をお願いしたいとなるんじゃないかと思っています。」
Willの総量が高い「チームアイスタ」へ。
ー チームマネジメントの視点で大事にしていることやテーマはありますか?
「自分自身の経験を振り返ると、いつもパートナーとも呼べる人がいてくれました。アイスタでうまくいった仕事って、だいたい高め合えたり補ってくれる人がいて、プロジェクトを通して学びあえる場になっているんですよね。
自分ひとりで何でもできる力を持つ人は存在するし、なんならそのひとりがいるだけでチームで集まるより成果が出るときって、普通にあると思うんです。
でも、アイスタという組織で働く価値や意味って、1人で戦って成果を出すんじゃなくて、仲間を増やしてより強いチームとなって成果を出していくことだと思っています。
仲間を増やすためには、どういうチームを目指すか考えて伝えた上で、ちゃんと自分のやるべきことをやる。それを相手からの信頼につなげる。
一緒に働きたいと思ってもらうには、どうしたらいいかってことを考え続けることがすごく重要だと思うんですよね。むしろそれがないとチームになれないというか。
今期体制を変更して、アカウント・デザイナー・エンジニアが三位一体となった新たな部門になりました。『チームアイスタ』という言葉がアイスタには昔からありますが、マネジメントの視点でいうと、それが叶う組織であり続けることは大事にしたいところです。」

ー ディビジョンメンバーや社員にどんな風に働いてほしいですか?
「それぞれが大いに『Will』を持っていてほしいですね。
自分が何をやりたいかっていうのが、働く上で……というよりも生きていく上ですごく大事だと思っていて、それを明確に持っている人たちの集団って強いと思うんです。なのでアイスタで働くみんなには『Will』を持ち続ける人になってほしいし、そういう人をどんどんどんどん集めて仲間にしていきたい。
若手でもベテランでも率先してやりたいことを語っていいし、実際にやっていい。それを楽しめる人に、アイスタでずっと働いていたいと言ってもらいたい。それが今の僕の『Will』の一つです。
あ、あとは僕みたいに一度アイスタを辞めた人を全員アイスタに戻したいです(笑)」
博報堂アイ・スタジオでは、当社を退職した方のカムバック入社を歓迎しています。
詳細はこちらからご確認ください。
取材・執筆:小宮 恵里花
撮影:小坂 夏未